ゆったりねっとり〜追憶と想起〜

肌寒い街の中に、二人の女性が路地裏を彷徨っていた。
彼女の名前は「セレナ」という。
こう見えても一人前の魔物娘だ。
おおなめくじと言う種族故、そんな大層な怪力がある訳でもなく、だからと言って何もない訳ではない。
彼女の体を覆っている粘液は、他のおおなめくじと比べて粘土が高いのである。
捕まえた得物は逃さない。そんなネバネバである。しかし・・

「んしょ・・・うんしょ・・・」
この通り、あまりにネバネバ故に歩く速度が人一倍遅い。
しかも、動くたびにネチョネチョと音を立てる為に、周りに劣情を催させかねない。

「おかあさん。がんばって!」
この少女の名前は「アルフ」という。
見た目の通りのリザードマンだ。
何故、リザードマンの少女が、おおなめくじの彼女を「おかあさん」と呼んでいるかというのには、訳がある。

今から数年ほど前、まだセレナが学生生活を送っていた頃のお話だ。

「それじゃ、またね〜♪」
「うん。またね。」
「ばいば〜い♪」
数人の魔物や人間の女生徒達と別れたセレナは、いつも通りに帰り道を辿っていた。
普段から通い慣れている、よく通る路地裏道だ。
そこは、いつもゴミや枯れ葉などが足元の大半を埋めているのでセレナにとっては通りにくい場所だが、ここが一番近い場所なのである。

「あれ?この子・・・」
普段と同じように、なるべく早く通り抜けようとぬめりを滑らかにして滑るように駆け抜けようとしたセレナだったが、途中で何かを見つけて足を止めた。
その中には、まだ幼い、赤ん坊のリザードマンが放置されて、酷く衰弱した様子。
そして、まるで見えないようにしていた箱から出してあげたセレナは、これは一大事と思って赤ん坊を抱えるとそのまま家へ連れ帰った。
今思えば、何故この子を役場やそういった類の施設に持って行かなかったのだろう。

「・・・とりあえず、連れて帰って来ちゃった・・・・」
「おいおい・・・どうするんだ、その子・・」
家に帰って来たセレナは、真っ先に父親の姿を見つけて駆け寄った。
父親は困り果てた表情をする以外は何もしてくれない。

「あらら〜。いいじゃないの。育てましょうよ〜。勿論、セレナが母親でね〜♪」
「おいファウ・・・・しょうがない、大事に育てろよ・・・」
二人して、まるでペットでも飼うかのような態度ではないか。
まぁ、異種の子供を育てるほど、二人は優しくないと言う事か。
そうすると、セレナも頑張らなくてはいけない。

「・・・はい。分かりました。」
それから、セレナは普段以上のバイトをし始めた。
飲食店でアルバイトをして、それが終われば直ぐに工場へ行って資材確認ばかり。
そして、帰ってきたらアルフの面倒を見る。
そんな生活が、一年ほど続いた。

「・・・好きだ。」
「・・・えっ?」
高校生活ももう終わりを告げて、もう皆とも逢う事はないと思いながら校門を出ようとしたセレナ。
だが、そこに居た一人の少年にいきなりの告白をされて戸惑ってしまった。
周りに何人も居るので、その中の誰かなのだろうかとキョロキョロしていたセレナだが、少年はセレナに抱きついてくる。
そして、そのまま話が進んで少年はセレナの家に遊びに来る事になったのだ。

「ごめんね・・・汚い所だけど・・・」
「ううん。平気だよ。我慢する。」
コイツ。男として失格だな。
男だったらもう少し、「そんなことないよ」とか「君と同じで綺麗だよ」とかって言って欲しい物だ。
それにしても、表情から嫌そうな顔をしているのに気付かないセレナも相当のお人好しなのではないだろうか。

「ここが、私の部屋なの。」
「うげっ。赤ん坊かよ・・・・てか、お前って子供居たのか・・・」
つくづくこの男は消し去りたい。
なんだ、赤ん坊を見たくらいで吐き気を催して!それに、赤ん坊がいると分かった瞬間に、セレナを見る眼が変わったぞ。
それに、セレナの両親の子だとは思わないのか!もしかしたら、エキドナの真似してたら異種が生まれたって事もあるかも知れないんだぞ?!

「その・・ごめんね・・・・五月蠅いかもしれないけど・・ひゃっ!」
「もーいい。お前犯したら俺帰るわ。」
「へっ?今なんて・・ひゃぁっ!?」
シュンとなって謝るセレナを余所に、男は唐突にセレナを押し倒して上に乗った。
そして、短く言葉を呟いたかと思えば素っ頓狂な声を上げたセレナの服をひん剥く。
その控えめな性格に似合わない、普通程度の胸が男の前に晒される。
その男の表情を見てセレナは思った。怖い、只管に怖いと。

「ま・・・まぁ・・・」
「アルフっ!起きちゃだめぇっ!」
「赤ん坊も黙らせないとな。ほれっ。」
服をひん剥いた男が、セレナを呼んでいるであろうアルフのいるベットに何か堅い物・・・そう、学校から貰った卒業記念のオルゴールを投げ入れた。
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