ここは、どこにでもあるような普通の民家。
中では、一人の青年と一人のアカオニと呼ばれる魔物の少女が戯れていた。
時折、住民から「追い出せ」と怒鳴られるのだが、この青年にとって、このアカオニの少女はかけがえのない存在だ。
それを言われたとおりに追い出す馬鹿はここにはいない。
「ねぇ、おにいちゃん?」
「んっ?なに?」
「フフッ・・・なんでもない♪」
呼んでおいて可笑しな奴だ。
まぁ、その笑顔に免じて許してやろう。
この子の名前は「白鬼(しらき)」と言う。
この青年、「白亜(はくあ)」が小さい頃に、白鬼の母親から無理矢理この子を預けられた。
それからというもの、この子は白亜を兄の様に慕い、また愛人としても見ているようだった。
時々、そんな仕草が見て取れる。
今の様に、呼んでおいて何もないと言って笑うのもその一つなのだろう。
「なんだよ。変な奴・・・」
「フフッ・・・」
「・・・・これ、気になるのか?」
白鬼がジッと見つめている物。それは、白亜が友人の結婚祝いに送ろうと包んでいた酒だった。
そこまで高価な酒でも無いのだが、伯父の作った名作だそうで、それなりに美味しいらしい。
白亜はまだ飲める程慣れていないので、飲むのは遠慮している。
「だって、この前お母さんも同じようなの飲んでたんだもん。」
「そりゃ、酒が大好きで酒屋の女将だったらガバガバ飲むだろうさ。」
今の会話で分かる通り、なんとも白亜の内縁関係は複雑だ。
まず、会話にも出ている通り、酒を送ってくれた伯父は、この白鬼の母親である紅《くれない》さんと共に酒屋を営んでいる。
そして、父親の息子、要は白亜の弟はジョロウグモと呼ばれる魔物と共にイチャイチャラブラブな生活を満喫している。
その他にもう一人弟がいるが、こちらは「荒稼ぎしてくる!」と言って家を出て、最近になってサキュバスと共に仲良くやっているという文が来ただけだ。
兄は二人いて、二人とも遠くの町で同じ家に住んでいる。バフォメットや魔女と呼ばれる魔物数人とともに。
それだけでも凄い内縁関係だが、そこに白亜すらも魔物娘と結ばれてしまうとなると、もう家から男が生まれなくなりそうな勢いだ。
「とにかく、子供がお酒飲んじゃだ〜め。」
「えぇっ?!い〜じゃんい〜じゃん〜っ?!」
別に、今の法で「子供の飲酒を認めない」なんていう項はないのだが、昔見た本に「アカオニ」つまりは白鬼と同じ種族の魔物は、酒を飲むと見境なく人を襲うと書いてあったので、それを恐れていたのだ。
別に、子供に押し倒されるほど白亜は柔ではない。
しかし、以前にも白鬼の力を試したが、もう少しで追い抜かれてしまいそうだった。
「・・・おっ?これなら良いかな?こどものびぃる」
「えぇ〜っ?それ、ブドウの味しかしないから好きじゃないもん・・・」
「よっし、これ、二本あるし先に飲んだ方が勝ちで勝負しようか?」
「ふぇ?!・・・よっし、乗ったぁっ!!」
思えば、何故勝負にしようとしたのか、良く分からない。
まぁ、凄く嬉しそうな表情でビンに口を付けた白鬼を見たかっただけなのかもしれない。
それでいいや。
「せ〜のっ!」
「・・ゴクッ・・ゴクッ・・」
「・・・・?!」
味に多少の違和感を残しつつも飲み比べをしていた白亜は、勢いで白鬼に負けそうになっていた。
実際、白鬼のほうが瓶の中身の減りが早い。
この調子で行けば、白鬼の勝利は確実だ。
しかし、6割方飲み干していた白亜が、とんでもないものを見つけた。
それは、テーブルの隅に置かれていたメモ。
内容はこうだった。
『まぁだ白鬼と展開ないみたいだから、悪戯しちゃうわね。
可愛い可愛い言ってるだけの甘ちゃん坊やにお灸を据えてやるの♪
蔵に羅辺留(ラベル)貼り替えた酒、置いておくわね〜♪
それも二本。私ってば太っ腹ぁ♪
紅より。』
してやられた。しかし、もう遅い。気が付けば白鬼の瓶には一滴の酒も残ってはいなかった。
「おにいひゃ〜ん・・・うぃっ・・・これ、なんか違うあじるする〜・・」
「うあぁ・・・・してやられたぁ・・・」
思った通り、白亜の目の前の白鬼は顔を真っ赤にしてフラフラしている。
酒が早速回っているらしい。それは白亜も同じだった。
その回らない頭でなんとか考えようとした白亜だが、流石に酒が効いているらしく思考すらも覚束ない。
「あぅあっ!おにいひゃん、らいじょ〜ぶ〜?」
「あぁ。大丈夫・・・だから、暫く・・・・ひとりに・・・・うあぁっ!」
「にっひっひ〜♪おにいひゃん、遅いよぉ〜?」
心配して抱きついてきた筈の白鬼が、いつの間にか嬉しそうな笑みを浮かべて白亜を押し倒していた。
その事に白亜が気付くまで、少し時間にズレがある。
しかし、この状況は変わらない。元々白鬼が着ている服も、今の流行りだとかで
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