「――さて、今日の予定は…」
「若様、少しお時間の方、宜しいでしょうか?」
ここは人間の里から少し離れた場所にある豪邸。
その中で一人、少年が手帳に視線を走らせて今日のスケジュールを確認していた。
ビッシリとインクで文字が書き連ねられてあり、今日も多忙の一日が待っているのであろうことを示していた。
そこへ、一人のメイド服姿の女性が声を掛けてくる。
彼女の名前は「ローズ」と言って、この館でこの少年「エリオ」に専属で仕えているメイドである。
非の打ち所の無い女性であり、エリオが最も信頼を寄せる人物の一人でもあった。
「ローズ?うん、いいよ?」
「それでは…」
「わっぷ?!な、何の真似?!」
手帳を畳み、机の引き出しへ仕舞ったエリオはローズの方へ振り向く。
いつもと同じく、その洗練されたような美しさを振りまくローズの話を聞こうと立ち上がる。
しかし、そこで思いもよらない事態に直面する。
話を聞こうと思った矢先に、引き出しの閉め忘れに気付いたエリオがローズから視線を外した。
そして、そっと閉めてローズの方へ視線を戻そうとするエリオだったが、その望みは適わない。
何か袋の様な物を被せられてしまう。
「若様に対する暴行、お許しください…」
「ふぇ?!な、何を…ッ…」
「詳しい話は後ほど………あら、私とした事が――」
袋を被せられ、パニックになったエリオをよそに、ローズはエリオを抱きしめた。
豊満な胸にいきなり顔から突っ込まされたエリオはそこで黙りこんでしまう。
が、まるでそれに対するお仕置きとばかりに、首筋に強烈な痛みが走る。
そして、薄れ行く景色の中でエリオはローズの珍しく慌てるような声を聞きながら意識を手放す。
――――――――――――――――――
「……ハッ!?」
「お目覚めになられましたか?」
エリオが目を覚ますと、見た事の無い天井が視界いっぱいに映る。
フカフカのベッドに寝かされており、さっきまで寝ていたような錯覚すら覚えさせた。
そのベッドの隣で、ローズが紅茶を飲んでいた。
「ろ、ローズ……ここは一体…」
「私の部屋です」
「え、そうだっけ?もっとこう…鮮やかな感じが…」
ローズに自分の居場所を教えて貰おうとして帰って来た答え。
その答に、エリオは多大な違和感を感じていた。
目の前に広がる空間は、まるで薔薇を散りばめたかのように赤一色で染められていて、このベッドですらも真っ赤である。
濃い赤色ばかりで構成されている所為か、少し薄暗さを感じさせる。
しかし、エリオが思っているローズの部屋は少し違っていた。
桃色や白色の、比較的明るめな色で統一されていて、とても清潔感があったのだ。
「正確には、ここは私の部屋、では無く『生徒会室』ですけどね」
「せ、生徒会室?!なんでそんな…」
学校や学園で使われる、生徒達を束ねる集団である生徒会。
それら生徒会が会議や活動に用いる部屋。
それが生徒会である。
少なくとも、エリオの知識はここまでであった。
「わが社の新開発実験の一環として、若様をここ、『魔界立魔アルカナ女学院』へ編入致しました」
「ま、魔界って!?そ、それに女学院ッ?!」
恐ろしいワードが次々と襲い掛かって来た。
まずは魔界。
これは人間界を侵食しようとし、信仰を続ける『魔物』が棲むと言われる魔の世界である。
魔物が存在し、人間を襲う。
エリオの知識はそれによって埋め尽くされており、恐怖しか感じなかった。
それと全く似合わないであろう『女学院』と言うワード。
女学院とは、女性のみで構成された学校を指す。
エリオの知識はこの程度である。
「そ、それに僕は男であって…」
「経歴に関しましてはもう作成してあります」
「これって……ぼ、僕っ?!」
名前:エリア・シュテリウム
年:17
性別:女性
所属:魔アルカナ女学院 高等部2年A組 7番
その他諸々の情報が書かれていたが、それらよりもエリオが驚いたモノ。
それは…
「こ、これが僕!?こんな服来た事…」
「一度着ておられましたよ?」
写真に写っている人物。
白黒で少し分かり辛くはあった物の、それは紛れも無くエリオだった。
性別以外の経歴は何ら間違っていない。
が、御曹司である事に関しては伏せられているようだ。
「ほら、ひと月ほど前に催されたパーティーの際、エドモンド様に奨められて…」
「ッ……〜〜〜〜ッ…」
ローズが説明すると、エリオが声にならない声を上げて枕に顔を埋める。
その内容に、エリオは覚えがあったのだ。
一月ほど前に開催された、エリオの父の誕生日パーティー。
そこにやって来た父の友人であるエドモンドと言う富豪に言われて、エリオの仮装ショーが行われたのである。
元々女顔だったエリオは、その所為もあって何度か女性用のドレスなどを着
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