第5話 紛らわしいっ!

リーフのベッドの下からいじめの内容をびっしりと書かれた教科書を見つけたネル。そして彼女は家を飛び出してリーフの元へと向かった。

「それじゃ、いつもの宜しく頼むよ。」
「ええ。任せておいて?」
リーフは、授業の休み時間を利用してクラスメイトのアラクネ「ラニィ」にある事を依頼していた。その依頼とは。

「そぉれ!息止めて?」
そう言ってラニィは糸を取り出すと、それをリーフに巻きつけ始めた。そしてグルグル巻きにし終わったところで、ラニィがその糸を勢いよく引いた。

「のわぁぁあっ・・」
勢い付いて回転したリーフ。そしてその回転によって色々なゴミなどの小さな屑が遠心力によって飛ばされて行った。そして目を回したリーフは、そのままラニィに受け止めて貰うように倒れ込んだ。

「・・!居た!お兄ちゃん・・と、あれはアラクネ?!」
タイミングも悪く学校に早くも到着したネルは、そのままリーフを探していた。するとあっさり見つかって呼ぼうとした。しかしその隣にはアラクネと呼ばれる半分人間と半分蜘蛛のモンスターが一緒に居た。

「ううっ・・ラニィ・・」
ネルがその場を覗きこんでいて聞こえて来たのは、なんとも弱り切って声も小さくなっている兄の声だった。そこでネルは確信した。このアラクネ、リーフを襲うつもりなのだと。しかし、実際はリーフが服のゴミを落として貰いその反動で目を回し、それをラニィが受け止めているだけであった。

「もう・・リーフ?そんな事だと食べちゃうわよ?」
その言葉を聞いたネルは、動こうにも動けなかった。兄を守りたい。自分の兄を誰かに渡す物かという心ももちろんあった。しかし、それを上回ってこの先を見てみたい。兄の喘ぎを聞いて居たいと思う気持ちも芽生えていた。元々此処は裏庭だ。誰かが来そうではあるが反対に言えばスリルを楽しめる状況だった。しかも二人はいま抱き合っている。それだけでネルの心は浮足立った。

「それは嫌だね。まだ俺だって生きていたいしね。」
「あらっ・・フフッ・・一体どれだけの人間が願いもしない人生を送ったと思っているのかしら。特に男性なんて人間しか居ないんだから、あなたも気をつけなさいよ?妹さんだったっけ?あの子もいつあなたを襲うか・・」
しかし、ラニィの言葉は続かなかった。何故なら、視界の隅には少し幼いアルラウネの顔が見えたからだ。そして動きの止まってしまったラニィを心配したリーフが立ち上がろうとした。すると。

「うわっ!」
「きゃっ!」
二人は互いに足を絡ませて倒れ込んでしまった。その状況は、リーフがラニィを押し倒して、ラニィはそれに従って顔を赤くしている。完全に誤解を招く状況だった。

「お兄ちゃん・・お兄ちゃん・・助けてよ・・体が熱いよぅ・・」
ラニィに見つかっていると気が付かなかったネルは、リーフが弱弱しい声でラニィを呼んだあたりから感じている体の火照りを押さえながら様子を静観していた。その気持ちはなんなのか、ネル自身にも分からない。しかし、その気持ちは明らかにリーフを「好き」と思う気持ちだったに違いない。

「ご・・ごめんラニ・・ラニィ!」
「ごめんなさい?もう少し・・このままで・・」
一方、アクシデントからこんな恥ずかしい状態になっていたリーフとラニィ。しかし、そんな状況がいつまでも続く筈もない。ラニィに詫びたリーフはその場を起き上がろうとした。しかし、それをラニィの蜘蛛の腕が許さなかった。リーフの背中をガシリと掴み、離そうとしなかった。

「お兄ちゃん・・んっ!何これ・・」
リーフが未だに状況を変えていない中、それを見ていたネルは驚いた。ふと自分の腕を腰に置こうとすると、そこにある花弁からは少量の花の蜜が垂れて来ていた。今までこんなことは無かった。しかし、今現実に腕に蜜が触れているし、体の火照りも激しくなって来ていた。

「ちょっ!人が来た。離れるよ?」
そう言ってリーフはラニィを無理矢理引き剥がした。少しばかり残念そうな顔をしたラニィだが、直ぐに立ち上がると汚れを落としてリーフと正反対の方向へ歩いて行った。

「ほっ・・良かった・・じゃない!お兄ちゃん!これどういう事?」
ラニィが居なくなったのを見計らって物陰から飛び出したネルは、リーフに教科書の事を聞いた。すると、それをよっぽど見られたくなかったらしくリーフは急いでそれをネルから奪った。

「ちょっとこっち来て!」
そう言ってネルは、分かっても居ない学校の裏庭の人の見つからない所へとリーフを蔓を使って拘束して連れて行くのだった。
10/10/14 18:38更新 / 兎と兎
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