一作目 お願いメイドさま〜とろけるような熱い罠〜

 時は現代 とある街の端っこに、古き良き雰囲気漂うレトロなレンタルショップがありました。
 店名は「レンタルショップ456」という。店構えに違わぬ歴史を抱えた昔ながらのビデオレンタルショップである。
 店に入りすぐの位置にある会計レジ受付では地味な部屋着の楽な恰好をした一人の男が本を読みながら受付対応を行っていた。
 流石にレジ打ちの時は本を読むのを止めている。だって手が動かせないじゃないか。

「まいどあり… はい、返却期限はいつも通りで… 頼みますよホント」

「ごめんごめん、悪かったって…今度は期限内に返すからさ」

「気をつけてくださいよねー」

 やらかしてきた客への対応もそこそこに会計を済ませてしまう。
 レジが混んでいるのかと言えばそういう訳でもない。というかこんなレンタル店が混む日が来たらいよいよ世も末だ。
 学生時代によく一緒に遊んでいた先輩だからこそ、こんな砕けた対応でも許してもらえているのだ。

「…なあなあ… ところでよ、シロウ」

「なんです?期間の延長だったら先に言ってもらわないとなんですけど…」

「違う違う! 後ろでお前のレジ打ち見てるメイドの子、新しく入ったバイトの子か? すんげー可愛いじゃん」

「……」

 シロウと呼ばれた店主の背後、受付の奥から楽しそうにこちらを…いや、シロウを…覗いている一人の女性がいた。
 メイド服姿に身を包んだ彼女は、こんな寂れたレンタルショップにはもったいないだろうってくらい美人に見えたわけで。
 じっとシロウを見て動いていないのもきっと研修中だからとかそういう事に違いない。

「あんな子…というかこの店にバイトなんて今までロクに居なかったじゃねえか どうしたんだよ急に」

「商品持って帰って楽しむバカをクビにして以来バイトは一人も雇ってませんよ」

「えっ? じゃああのメイドの子は… っ?!」

 客の男はその時、メイドの女性の方を見て…見てしまった。
 受付カウンターの奥、陰になっていてよく見えていなかったが澄んだ金色の瞳を覆うのは白目ではなく黒い目だった。まるでマンガやアニメに出てくる悪魔のような、そんな怪しく光る目が。
 それにほんの少し見られた、目が合ったと思った瞬間に背筋がぞっとするような感覚が走る。
 蛇に睨まれた蛙…ちょっと違うかな… まぁそんな感じの悪寒が襲い掛かってきた訳で。

「…『モニョモン〜日陰者たちの逆襲〜』『モニョモン〜ヨウキャ爆誕〜』『モニョモン〜パリピタワーの帝君〜』」

「う、うわあぁ?! わざわざ読み上げないでくれ!? …って、アレ…?」

「こら、ダメだろココ? お客様の嫌がる事はしちゃいけません わかった?」

 不可解な悪寒こそ無くなったものの、今度は借りていく映画のタイトルを読み上げられて恥ずかしさがこみ上げて来る。
 一般的には子供向けに作られたアニメの映画作品、そのシリーズをイチから見て行こうと思ってここへレンタルしに来たのが客の彼であった訳で。
 今日もざっと12作ほどレンタルしていく訳だが、その全てがモニョモンシリーズの映画たちで占められていた。

「はい…」

「わかればよろしい」

「んっ… ですがご主人様、これでは今日のご褒美が…」

 叱られてしょんぼりしたかと思えば、今度は頭を撫でられて艶っぽい声が零れてきて、しかもご褒美とな。
 もしかしてそういうご関係ですか? そう聞くのもなんだか野暮ったい気がしてしまうのは、昔から知っている者同士だからなのだろうか。
 それにしても、さっきは目が合っただけだったから他の所に気が付かなかったが、改めて見るとすごい恰好のメイドさんだ。

「……」

 小顔で整った可愛い系と美人系が共存した、おそらく大学生くらいの年齢であろう彼女…ココって呼ばれてたな。
 背丈もたぶんシロウと同じくらいあるだろうそれを長いスカートと目立つエプロンで誤魔化している感じだろうか。
 それにしたって彼女の着ているメイド服のデザインがとても刺激的だ。基本は踏まえたデザインのようだが、肩やら腰やらに入ったスリットからは彼女の顔色と同じ茄子みたいな藤色の素肌が覗いていた。
 いや藤色の素肌ってなんだよ…と思いたかったけど今は多様性の時代。そんな肌の色をした所の人なのだろう。

「…おや? 『お願いメイドさま〜とろけるような熱い罠〜』 今日はこちらで致しましょうね、ご主人様」

「えっなんだこれ」

「はぁ… またやったなココお前…」

 気が付けば見知らぬパッケージのケースが一つ増えていた。
 水に濡れてスケスケのメイド服を身に纏ったメイドさんが妖艶にポーズをとっているケースはどう見たってそういう用途のヤツだ。
 パッケージ裏のざっくりしたあらすじに切り貼りされたシーンの数々も、明らかにご主人
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