俎板の上の恋

 海中、浅瀬に作られた人魚による人魚たちの人魚の棲む国家があった。
 これは、人を愛し海を愛し、何よりも歌を愛するその国に住む、一人の人魚の物語。

「……んっ! は…あはっ…」

「ふっ…ふっ…い、いくっ!」

 ここは町はずれのサンゴ礁。
 サンゴ礁がまるで森のように立ち並ぶ姿はきっと真珠のような美しさを放っているでしょう。
 そんな物陰で愛し合う人魚と人間が、今まさに愛し合っておりました。

「きてっ! どくどくってまただしてぇ!」

「うっ…けど、そんな事したら…」

「いいからぁ! バレたりしないって! アイドル候補生続けていくし…だからぁ!」

「け…けど……うあぁぁもう無理だぁぁ!!」

 アイドル…ああ、何という事でしょう。
 この国においてアイドルの存在は国の宝のようなもの。
 誰の物でもなく全ての人たちの憧れたるアイドルの卵、それがアイドル候補生。
 そんな彼女が、サンゴ礁にもたれかかって彼氏のモノを受け入れて、ましてやその長い魚の身体をラミア種がやっているように巻き付けて彼を縛り付けてまで愛するなんて。
 あれだけ柔軟な体をしているという事は、彼女の身体はタチウオか何かなんでしょうか。

「あっ……んはぁぁ… あっついのきてる…きてるよぉ!」

「やば…やばい… 吸い取られてヤバい…」

「ねえねえ、まだ時間余裕あるし、もう一回シよ?」

「え、ちょ…今イッたとこ…あひぃ!」

 どうやらまだまだ元気なようで。
 若さって時折、羨ましさすら感じちゃいますよね。

 あ、私が誰か、ですか?


「……んぅっ……ふぅ、ごちそうさまでした…」

 人気の無いサンゴ礁で自分を慰めていたらいきなりラブラブそうなカップルが入り込んでくるんです、覗かない訳がないじゃないですか。
 そのまま一部始終をバッチリと覗きあげてスッキリするまでが私のお仕事なのですから。
 恋愛研究家、愛の伝道師 ラクス・コーラルとは私の事です。

「あの子、はやく気付いてあげられるといいけれど…」

 きっとあの彼氏の方、まだこちらへ来て日が浅いかインキュバスとなって日が浅いのでしょう。
 魔物娘の人間とは全く違った搾り取り方に身体が付いて行っていないようでした。
 私の方も、旦那様と出会って最初の一発目はそれはもうえげつない疲弊っぷりでしたから。

 あら嫌だ、一発目だなんて下品でしたね。

 彼女は私のような愚かな過ちをしないよう、ここで密かにお祈りしておくとしましょう。

「…さてと、そろそろ帰らなきゃ」

 愛する彼の待つ我が家へ。
 世界へ飛び立つ為に日々のレッスンを頑張るアイドルたちを教える立場の彼に、帰って来たのをおかえりなさいと迎える為に。
 女の子たちの匂いがベッタリなのはもう慣れました。
 アイドルのたまご達を鍛え上げ、世界へ送り出していくよう鍛えるのが彼の仕事なんですから。
 浮気とかは疑っていません。
 だって、あの人は私が居ないとダメなんですから。


「ただいまー、さって夕飯の準備しな…きゃっ?!」

 あっと言う間に帰宅してさあ夕飯の準備だと思ったところで手を掴まれる。
 一体誰が手を掴んだと言うのか。
 振り返ればその答えはあっと言う間に視界に入り込んできた。

「あなたっ!」

「……」

 愛しのマイダーリン、どうしてこんなに早くに家へ?
 そう聞く暇もなく、私は唇を奪われていた。
 こんなおかえりのキスの仕方もあるなんて…また一つ学んでしまいました。

「んっ……んぅ…」

「……」

 お互いに待ち望んでいたような、最高に濃くて美味な彼のキス。
 舌を絡めあってお互いの境界線があいまいになってしまいそう程の熱い口づけに、今にもとろけてしまいそう。

「ぷはっ… どうしたの、いきなり…」

「……喋らないで…」

 とろけそうになっていた頭の中に、彼の言葉は水よりもずっと侵透しやすかった事でしょう。
 耳元で囁くような甘い声と一緒になんてなってしまえば猶更です。

「…?」

「……いい子…」

 とりあえず彼の言う通り、口を閉じてみたらそんな子供をあやすような褒め言葉と一緒に頭を撫でられて…
 尾びれと尻びれがビクンと跳ねて背筋がすごくゾクッとしちゃいます。
 甘く蕩けるようなその声音には、きっと私にしか効かない魔力が込められているのでしょう。

「……動いちゃ…ダメだよ…?」

「…っ?!」

 あぁ、言い忘れていました。
 彼の名前はノウト、ノウト・コーラル。
 見ての通り、ちょっと口数が少なくてたどたどしい男の子です。
 まぁ、そういう所もぜーんぶ含めて愛しているんですけどね。
 因みに背格好は男性にしてはちょっと低めですがこれでも30歳、立派な大人です。

「……布団、いこう…」

 そう言ってノ
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