デカい鉄の塊が海の上に浮かんでいるだなんて未だに信じられない。
この港は確かにそこそこデカいし近くには造船所もあるからちょくちょく新造船のお披露目会なんかはやっている。
ただ、今回の場合は何から何かでケタ違いだ。
あっちを見てもこっちを見ても、メイドやら執事を従えて歩いているドレス姿の婦人やら紳士やらがゾロゾロと歩いている。
彼らは決まって同じ方向へ歩いて行く。
そう、この目の前で浮かんでいる城みたいな船に乗って豪華な船旅を楽しむのだ。
かく言う自分はと言うと…
「ふあぁ〜あ……退屈だなぁ…」
港の入口で潜入を図る馬鹿が居ないかと見回りをする警備員A、それこそが与えられた役割だった。
まぁ、今見張りを任されている場所は人通りこそないものの、だからと言って港の方へ続いているわけでも無い、言わば袋小路のような場所。
わざわざこんな所へ来るやつが居るとすれば、別の港から荷物を運んできた業者くらいだろう。
まぁ今日に限っては港側が入港拒否すらしているらしいが。
「だいったいこんな所に来てまであの船を見ようとかどんな物好き…」
確かに聞こえた。
水の塊が落ちてきたような、バシャアッと言う感じの音が。
まさか海側から泳いで侵入してきたやつでも居たのだろうか?
それともマヌケな貴族様が海にでも飛び込んだのだろうか?
どっちにしても面倒事は避けられないだろう。
「やれやれ、どこの物好きd…っ!?!」
音のした方へ向かってみれば、確かに誰か居るには居た。
ずぶ濡れの修道服を身に纏った女性が、倒れていたのだ。
海中から投げられでもしたんだろうか?
だが何故そもそも海中に居たのだろうか?
なんて考えるよりも先に身体が動いていた。
「おい! 大丈夫かっ!」
声を掛けつつ駆け寄るも返事はなし。
肩を叩いてもそれは変わらない。
もしやと思って口元に耳を近づけると、その予感が当たってしまう。
微かな呼吸すらも聞こえてこない。
「息してないっ! しっかりするんだ!」
首を持ち上げて気道を確保して、さあ心臓マッサージだと思っていたその時。
というよりは、彼女の肌に触れた瞬間だっただろうか。
ただ水で濡れているのとはまた違った、ぬめりのような感触に身体が動かなくなる。
「なんだ…このぬめり…」
まるで魚でも触っているかのようなぬめりに、焦りや義務感は消え去ってしまい代わりに疑問と警戒心が身体の動きを止めさせる。
なぜ彼女の身体はこんな風になっているのか?
そもそも彼女は人間なのか?
「これ、もしかしてまもn…」
その言葉は、最後まで紡がれる事は無かった。
いきなり動き出した彼女の腕が首に回されて、気付いた時には頭を引き寄せられ唇を奪われていた。
「んんっ?!」
初めてはドッキリみたいな悪戯で濃厚なキスだった。
あっと言う間に舌が口の中へ入って来て、舌を絡め取られていく。
脳が蕩けてしまいそうな甘い刺激と感触に、抵抗どころか身動きすら出来ない。
それからどれだけの間、身体を好きにさせていたのか分からない。
でも、彼女が唇を離すのと一緒にフワフワとしていた意識が戻ってきた事からも、かなり長い間口づけを交わしていたんだろう。
「はぁ…はぁ……な、なんだ…?」
「ふぅ……やっとここまで来れました…」
透き通るような声音でそう呟いた彼女は、こちらをじっと見つめている。
品定めをしているとかそういう感じではなく、なんとなくだがうっとりとしているような。
しばらく見つめ合っていた二人だったが、少女の方からとんでもない事を言い出す。
「…決めました」
「うん…?」
「貴方、私の夫になってくださいな?」
「うん……うんっ?!」
つい流れで相槌を打ってしまったが、何を考えているのだこの半漁人は。
トロンとした瞳でこちらを見つめていたかと思えば、いきなりの求婚。
もしやさっきのキスでスイッチとかが入ってしまったのだろうか。
「宜しい! それでは私の計画に乗って頂きますね!」
無邪気に笑う彼女に、反論しようとする言葉は喉元で引き返していく。
きっとこれは何を言っても聞き入れては貰えないのだろう。
「貴方、お名前は?」
「俺はジャック…ジャック・レナードソン」
「私はローズ・ケイティ…まぁ、もうすぐケイティ姓は捨ててしまうのですけれどっ!」
うふふと笑うローズに手を引かれ、二人は船のある方へ向かう。
と、ここでジャックはある事に気付いた。
彼女は人魚だ。
ならその足はどういう事なのか。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
「はい、何でしょう?」
「さっきまで魚の形してなかったか、その足?」
海のように青い鱗を持った尾をしてい
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