「ギルディア……言いたい事があるのだが…」
「うん? なんだい?」
「これは、少し事を急ぎ過ぎるのではないか…?」
ほとんど流れに流されて決まった結婚から夜が明けてすぐ。
結局あれから一睡も出来ずに夜を過ごしてしまった。
だが、ギルディアから話を聞いて分かった事もある。
「だいたい、「キス=婚姻の儀」というのがおかしいと思うのだが?」
「そうかな? 少なくともこの地方でのしきたりではそうなってるよ?」
しきたりに従ってプロポーズした、なんて言われれば呆れもするというものだ。
かなり過程を飛ばされたような気がするが、どうもギルディアのペースに乗せられたままでいるのが癇に障る。
私とてヴァンパイアなのだ、余裕を以て振る舞えずして何が吸血鬼か。
だが、彼の言葉には何故だか苛立ちを覚えてしまう。
「……それは、「しきたりだから仕方なく」なのか…?」
そう、「しきたりだから」と言うぼんやりとした理由で、好意がある訳でも無いのに結婚を申し込まれているのではないか?
他に恋人なり許嫁なり居たかもしれないのに、それらの思いを無視して奪ってしまったんじゃないかという、罪悪感の混じった後悔が私の心をこれでもかと蝕んでいくのがハッキリと感じ取れる。
だがそんな考えも彼の言葉で消え去ってしまう訳だが。
「そんな訳ないじゃないか」
そう言うとギルディアは、子供に言い聞かせるのと同じように視線を並べてまっすぐに私の目を見る。
これまで過ごしてきた中で、きっとこの瞬間ほど彼が大人びて見えた事は無かっただろう。
「僕は君が好きだ。しきたりがどうのとかそう言うのじゃない。僕は一人の男として君を愛しているんだ」
「っ!」
嬉しさで胸が一杯、なんて言葉があるが、まさに今の私はそんな感じなんだろう。
その嬉しさとやらが詰まってしまって言葉も上手く吐き出せない。
ただ、密かに焦がれていた恋慕が実を結んだ瞬間に酔い痴れていただけなのかもしれないが。
「ギルディア…」
「アレイスター……っ…」
互いの唇が重なり合う。
最初のような、舌を絡ませ合い貪り合うような事はせず、ただただ重ねるのみのそれは、しかし最初の口づけより何倍も甘く蕩けるような感覚に襲われる。
すぐに唇を離してしまうが、どうにも物足りない。
「わ…私は…」
「言わなくても分かるよ…」
そう言いながら、顔に手を添えながらもう一度キスをしてくれる。
優しさに満ちた甘く蕩けそうな感触が頭の中をふわふわとした感覚に陥らせていくのがよく分かる。
「アリス…」
「…?」
「アレイスター、より呼び易くて良いと思わない?」
あだ名とかそういう物の事だろうか?
なんて事を考えるよりも先に、彼の問いに嬉々として答える私が居た。
きっと、心の中のどこかでは「自分が女性になった」のだと受け入れようとしない心があったのだろう。
だが、それも儚く砕け散る。
「女の子っぽい名前になったね…僕の事もギルで良いよ?」
「女の子…」
「うん、いい名前だとおも…あぁ、ごめん…イヤだった…?」
どうしてそんな事を聞く?
と口にする前に、その原因は分かった。
「これは…涙…?」
「ごめんよ、イヤなら良いんだ。いつも通りアレイスターで…」
「いや……アリスで頼む…」
さようなら、紳士であろうとする私。
きっと長い付き合いだっただろうが、これから先に君は居てはいけないんだ。
これからは一人の女として、彼の元で生きていきたい。
「なら……アリス、もう一度言うよ? 僕と…結婚してくれないか?」
「…あぁ、喜んで…」
彼の手を取りプロポーズを受ける。
たったそれだけの動作だったのにも関わらず、私の心は心臓が破裂してしまいそうな程に高鳴っていた。
「しかし、ギル…その……本当に私でいいのか?」
「ん? どうしてそう思うの?」
「私は人間ではなくヴァンパイア…吸血鬼だ。その私と共に居るという事は…その…」
お前の命も危ないかもしれない。
そう言おうとした私の口を、ギルは唇に指を当てて黙らせた。
「君は吸血鬼である前に一人の女性だ…違うかい?」
「それは…」
「なら、君が吸血鬼かどうかなんてのはどうでもいい。男が女を愛する上で、それは些細な事なんだから」
「しかしだな…っ!」
私がそれ以上の言葉を紡ぐことは無かった。
口づけによって口を塞がれてしまったのだから。
===
「……ぷはっ…はぁ…はぁ…」
「はぁ…はぁ……大丈夫かい?」
「はぁ…はぁ…き…きしゃまぁ…」
一体どれほど長い間、口を塞がれていただろうか。
舌を絡められ、幾度となく唾液を交換しては舌が引き抜かれそうな程に引っ張られる。
その度
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