ストーカー・デス

 私、フリル・エンダーは現在、ある事にハマっている。
 ある事と言うのは…

「……っ?!…またか…」

 誰かの視線を感じて後ろを振り返る一人の青年がいた。
 彼の名はオリオン。
 ここシャングリラで兵士たちの教導官をやっている、言ってしまえば教師のようなものだ。
 そして…

「フリルー?お前なのかー?」

 周りを見渡しながら呼ぶのは彼の伴侶の名。
 そう、オリオンはフリルの夫なのである。

「……やれやれ…気のせいか…?」

 いいえ、そんな事はありませんとも。
 ただ、彼の前へ出て行くのはまだまだ早計と言うもの。
 何の理由も無く気配を殺して彼の様子をうかがっている訳ではない。
 勿論、このままずっと見ていていいと言うなら見つめていますとも。

「……」

 夕暮れ時の街道だからでしょうか、人がゾロゾロと。
 そのうち見失ってしまいそうですが私程の実力ともなればそんな事はございません。

「………まだか…」

 オリオンが立ち止ったのは、街道では結構有名なファラオ像の前でした。
 なんでも建国記念に造られたそうですが、今はそんな事関係ありません。
 有名な、もっと言ってしまえば目印にはもってこいな場所に立ち止まって「まだか」と呟く。
 これはつまり、誰かと待ち合わせをしているのでは。
 これはもしかするともしかするかもしれません。

「………ん?そういえば……よし、持ってるな。エチケットだもんな…」

 何かを思い出したように財布を取り出したかと思えば、中身を覗いて一安心するとポケットに戻しました。
 財布を覗いてエチケットがどうのと。
 これはつまり、今から会うのは女性、それも性行が目的なのでしょうか?
 私は知っているのです、オリオンの財布の小銭入れの中にはいつも未開封のコンドームが一枚入っている事を。
 いつ聞いても「これはお守りだから」とはぐらかされますが、やっぱりこういう目的の為に持っていたのでしょうか。
 …いえ、ここで飛び出すのはまだ早いでしょう。
 もしかするとただ単に所持金の確認をしているだけかも知れませんし。

「おう、待たせたなオリオン」

「いえ今来た所ですよ、アテンさん」

 暫く待っていましたが、どうやらオリオンの会う相手とはアテンさんだったようです。
 ファラオの夫にしてこのシャングリラの中核に居る、要はとっても偉い人。
 オリオンとは昔からの付き合いだそうで、以前にパーティーを開いた時はずっとお喋りしてました。

「にしても…嫌がらせか何かか?俺がアイツ苦手なの知っててこんな場所に呼び出すなんて…」

「あっはは、相変わらずなんですね。でも、目印にはもってこいでしょ?」

 アテンさんはファラオさまが苦手。
 それはシャングリラの国民ならだいたい皆が知っている事でした。
 なんでも逢瀬のインパクトが凄かったのと、恐妻家な所があるんだそうで。
 ファラオさま本人はインタビューを受けている時に否定していましたが、きっとカカア天下とか言うやつなんでしょうか。
 謎です。

「まぁそうだけど……とりあえず行くか」

「そうしますか」

 そう言って二人が歩き出した先にあったのは……ホテルでした。
 勿論えっちぃ目的専用のホテルという訳ではありませんし方向が一緒と言うだけでそこへ行くとも限りません。
 ですが、その方向にある物と言えば後はえっちぃ目的専門のホテルくらいしかなくて…
 つまりこれは、ホテルの室内で「男と男のおつきあい」というやつをするつもりなのでは。
 まさかアテンさんにそんな趣味があったとは…いや、恐妻家の夫はそういう傾向にあるのかもしれません。
 しかもオリオンまでそんな趣味があっただなんて、妻として私はすごくショックです。
 そういえば、最近エッチな要求をしてもどこか鬱陶しそうに断られている気も…
 これは追跡せねば。

「にしても、ホントに俺で良かったのか?他にもたくさん居るだろうに」

「いやいや、こういうのはアテンさんじゃなきゃダメなんですよ。他の誰かじゃ意味が無いっていうか」

 歩き始めて数分もしない内にとんでもない事を聞いてしまいました。
 どうやらオリオンはアテンさんだけでなく何人もこういった関係の人物がいるようです。
 しかも一人や二人ではなく「たくさん」との事。
 今すぐにでも問い質してやりたい所ですが、もう少し調べてみた方がいいでしょう。
 もっといろんなことが分かるかも知れません。
 とりあえず家に帰ったらキュッと締める事は確実でしょう。

「意味が無いって…それこそ知り合いの女の子とか誘ったらいいんじゃないか?」

「いやぁ、女の子て言ってもねぇ……なんか噂話にしてバラ撒きそうじゃないですか?「私あの人とどこそこに行ったんだー」って…今回のはそういうの
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