イヤな事は白い粉でサヨナラ

人は精神状態が不安定なまま過ごしていると、無意識に破滅へと全速力でダッシュすると聞く。
例えば、友人を傷付け自分も傷付き、修復の効かない深く暗い亀裂を自ら作り出す。
例えば、今まで愛していた者を傷付け、その責任逃れに自分も傷付こうとして気が付けば死んでしまう。
例えば、仲の良かった肉親や親友を手に掛け、そのひび割れた心に塗りたくる。

一体誰が言い出したか、「幸と不幸は紙一重」なんて言葉もあるくらいだ。

「………」

この青年、「アースラ」は思う。
暗く淀んだその瞳の先に見えるのは、今まで愛していた、愛してくれていた愛犬の横たわる姿。
何も誰かに殺された訳ではない。
元から長生きしてくれていた彼女にも、ついにその時が来たと言うだけだ。
だが、アースラは言い知れない悲しみに包まれていた。

「お前で……最後だったのにな……ハピネス…」

呟きながら、彼は涙を流して動かないままの愛犬を撫でていた。
彼の脳裏に過るのは、今まで目の前で儚く散って行った者たちの顔。
貧しかった自分を弟の様に可愛がってくれた兄貴分の顔。
貧民街で出会った、元気いっぱいの少年少女たち。
近所でパン屋をしていた魔物娘のおかみさん。
みんな、もうどこにも居ない。

「………俺も……皆の所に行くのかね…」

きっと城下町の方では今頃、王家がどうのとかでパレードの一つでも催しているのだろう。
祝砲の爆発音が、貧民街の路地裏に横たわる青年の腹に痛い程響いてくる。
富める者にはとにかく富を、貧しき者には慈悲も無し。
そんな国是は反感を買うだろう。
実際、何度となくデモは行われたが、どれもあっさり鎮圧されたのを思い出す。
そういえば、その時の騒乱で兄貴分も町の子供たちも皆…

「………雪…?」

空を見れば、ひらひらと降る粉雪が見て取れた。
だが季節は秋、程よい寒さと温かさが混ざり合ったような気温であり、ボロ布のような服を来ただけの彼でも丁度いいと感じるような気温だ。
そんな中で、雪が降るとは到底思えなかった。

「ははっ……お前が見せてくれてるのか……ハピネス…?」

「はぁぁぁぁああい!!」

「っ?!」

アースラは自分の目を疑った。
隣で横たわったまま動かず、後は身体の肉が腐るのを待つだけとなっていた愛犬を呼んだはずが、別の、というか真上から聞き覚えのない声が聞こえてきたのだ。
振り向いてみれば、そこに居たのはちょうど町の子供たちと同じような幼い少女。
それが、全裸で腰に綿を付けただけのような状態で「自分の頭の上から舞い降りた」

「なっ……なにっ…」

「みつけた〜♪みつけたみつけた〜♪」

「わっぷ!」

少女を見上げる形のまま、驚きのあまり固まっていたアースラだったが、気が付けば彼女は彼の目の前まで降りてきていた。
次の瞬間には、アースラの顔を腰の綿の中へ招き入れて彼の顔面に着地する。

「やぅん♪くすぐったぁい♪」

「っ?!?!?!」

分かりやすいよう説明するなら、全裸の幼女が天から舞い降りてきたかと思えば、彼の顔面を自分の股間にシュゥーーーーーッ!超エキサイティンッ!という訳である。
いや、別にエキサイティングな訳がないが。

「よい…しょっとぉぉ!!」

「っ?!(ヤバ…)……?」

眼を白黒させて慌てふためくアースラの事など放置して、少女は彼の顔面へ体重を掛けて行く。
女の子の恥ずかしい所がむにむにと押し付けられる感覚に陶酔を覚えるよりも先に、アースラは危機を感じていた。
このまま倒されれば、彼女の下敷きになる形で後頭部を強打してしまう。
最悪死んでしまうかも知れない。
一瞬の出来事に対処が出来なかった彼が諦めようとも思った次の瞬間には、不思議な事が起こっていた。
頭を打つことも、のしかかられる事もなく、ただただふわりとした浮遊感に包まれていたのである。

「あははっ♪こーんにちわ〜♪」

「一体なんなんだおま…え…?」

なにがどうなっているのか訳が分からなくなっていたアースラが少女を顔面から引き剥がして問う。
問おうとするのだが、どうにも頭がふわふわとした感じで思考が空回りしてしまう感じに苛まれる。

「あたしはハピネス〜♪幸せを呼ぶケサランパサラン…って知ってるかな〜?キャハハッ♪」

「幸せを呼ぶ…?」

「そそ〜♪あたしもその一人なのだよ〜♪えっへん!」

頭がふわふわとしてぼーっとした思考の中でも気付いた事がある。
彼女の体重が、異常に軽いのだ。
まるで大きな綿菓子でも持っているかのような軽さに、戸惑いはしてもそれ以上が考えられない。
結局は、この、自分をハピネスと名乗る全裸の少女と話をしてしまう。

「ハピネス……コイツと一緒だな……名前…」

「うん?このワンちゃん?ぐったりしてるね〜」

死んでるんだよ、とはどうしても伝え
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まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33