「―――備蓄が…」
少年は自宅に設けられている食料庫を開けて中身を確かめる。
確かに蓄えは無いわけではないが、彼の言うとおり万全とは言えず、とてもではないが満足に食事が出来るような状況とは言えなかった。
「兄ちゃん、もう中身ないでしょ?」
「あぁ、アミィか。買い物行くけど一緒に行くか?」
「うぅん、今はちょっと手が離せないからいいや。兄ちゃん一人で行ってきなよ」
家族で食事をするこの場所は、他の皆の部屋にすぐ入れるような形となっていて、窓から侵入するでもしなければリビングを通って自室へ入る形になっている。
だがアミィは、今日に限ってはその姿を見ていない。
まぁタイミングが違っていただけなのだろうが。
「あいよ〜。何か要る物あるか〜?」
「うぅ〜ん……最近勉強とか忙しいし、何か飲み物買ってきてー?」
アミィが飲み物を要求している時、だいたい同じものを求めている。
それはお茶である。
ジパング地方発祥の、苦みの強い緑の茶が彼女は好きなのだ。
最近では茶葉を細かい粉に砕いた物が各国で売られるようになりだして人気が高いんだそうな。
「…コホン……では、コウィ・ブリード、買い物へ行って参りますッ!」
軍人のような真似をしながら、コウィは自宅を飛び出て買い物へと出向くのであった。
――――――――――
ふと買い物に出向こうにも、彼の自宅は人の住む町から少し離れた場所に存在している為か、街に着くまでに歩いて数十分はかかっていた。
実際そこそこの距離がある為にコウィも無理に走って時間を短縮しようとしたりする事はなく、いつも通り町までの田舎道を歩いて行くつもりであった。
「……工事中かぁ…」
目の前には看板が立て掛けられており、向こう側を覗いてみると何人ものジャイアントアント達が木材や工具を担いで作業に励んでいた。
どうやら地面に大きな穴が開いているらしく、ポッカリと開いた穴はずっと下まで続いているようである。
全く、誰がこんな迷惑な事をしてくれた事なのやら。
「仕方ない……急がば回れ…としますか…」
はぁぁ、とため息を吐きながら、コウィは横道へ逸れた細い路地を突っ切る事にした。
しかし彼は、この時自分で気付くべきだったのだ。
それは回り道ではなく獣道だったという事に。
「………」
その路地は、あまり狭くも無いのだが異様な点が一つあった。
人が一人も居ないのだ。
すれ違う人や後ろから来る人影が無いと言うよりは、誰もこの道を使いたがらないと言った方が的確な気がする。
「―――ぅぅ…」
「……ん?何か聞こえて…うゎ?!」
路地から続く、一本の人が一人入れそうな程の細い道があった。
そして、その奥から小さく呻くような声が聞こえたのだ。
もしかしたら苦しんでいる人が居るのかもしれない。
つい正義感と好奇心から路地裏を覗きこんだコウィだったが、それが運の尽きだった事をこの瞬間まで知る事は無かった。
路地裏の影から、ぬっと腕が伸びてきてコウィの服を掴むと一気に路地裏の中へと引き込んできた。
いきなりの事に反応出来ず、コウィはそのまま路地裏へと引き込まれて路地から姿を消した。
「んじゅっ……れろっ……じゅるるるっ……んぅぅっ…」
「んぅぁ……れるっ……んんぅ……」
次の瞬間には、コウィは熱烈なキスを交わしていた。
路地裏の暗がりに引き込まれたかと思うや否や、いきなり唇を奪われたのだ。
しかも、キスなどした事の無いコウィからすれば、これが初めてのキス、ファーストキスだった。
ただ、いきなりの事だった事に加えてあまりにも貪るような深いキスだった為、コウィには良い印象は全く見受けられない。
これではファーストキスではなくワーストキスだろう。
「れろっ………じゅるるっ……ぷぁぁ!」
「ぷぁっ!?はぁ…はぁ……ゲホッゲホッ!」
数十秒も続いた、熱烈なキスだったがその終わりは唐突に訪れた。
舌を絡め合い、貪るようにコウィの舌を吸い、彼に呼吸をさせまいとするようなキスだったが、不意に相手の唇がコウィの唇から離れてやっとコウィのファーストキスは終わりを迎えた。
尚も二人が熱いキスを交わしたことを証明するかのように互いの唾液が絡まった粘液が糸のように垂れて橋を作っていたが、それもすぐにプツンと切れる。
「ゴホッ…い、一体何を…」
「はぁ…はぁ…ふふっ……やっといいのを見つけたよ…」
キスを交わしている間は、何が起こったのか理解する事で精一杯だったので見ていなかったが、ここでやっとコウィはキスを交わしていた相手の姿を見ることが出来た。
不揃いに切り揃えられたそこそこ長い髪が、ふわりをしているのが最初に目に入る。
そこに居たのは、自分よりも5か6つほど年上であろう女性だった。
「み、見つけた?何を…うわっ!」
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