アルバイトが始まってあれこれあって一週間が経過した。
初めて初日から過酷な重労働を強いられたかと思えば、翌日には身体中ボロボロ。
そんな日常が続くかと思いきや、残りの日程は全て普通に働く事が出来た。
これも店長の心遣いなのかとも思ったが、ならば休みにしてくれてもいいのでは?
所変わって、現在は爲葉家のリビングにて。
「ふんふん……エゾ地方の大地主、その一人娘が行方不明…かぁ…」
「姉さん、また大変そう?」
「いや、こんな大それた人探しには上層の奴らばっかり向かうだろう。部下には手出しさせないんだろな。金が目当てなのさ、結局のところ…」
「だろうね…」
リビングで朝刊の新聞を広げて読んでいたシグレとの世間話を交わしながら、今日も光定は家族の朝食を作っていた。
あまり関係は無いのだが、今日の献立はバランスを考えて一工夫してみている。
「おも〜い…重いわぁ〜…」
「あぁ、私も気が重いと思っているぞ?」
「ただの二日酔いだろ?どれだけ飲んだんだよ…」
「奢ってくれりゅってかりゃ……10本くりゃい…」
「缶じゃなくて一升瓶なんだろうなぁ…」
そろそろ朝食が出来上がるかと言う頃合になって、ミナがリビングへ侵入してきた。
強烈な酒の匂いと共に。
いくらなんでも飲み過ぎだろう。
また今度、アルコールの過剰摂取で死んでしまう人の話でもしようかなと心に誓う光定だった。
「くぉらぁ、みちゅしゃだぁ!おねえちゃんのためにみじゅのひと…ぶべらっ!」
「お前も少しは頭を冷やせ」
「はい…」
すっかり意気消沈してしまった様子である。
流石は爲葉家の長女なだけの事はある。
そのすぐ目の前に、水をぶっかけられてずぶ濡れのままションボリしている三女が居る訳だが。
「やれやれ…はい、二人とも朝ごはん出来たよ?」
「あぁ、ありがとう」
「うぅぅ…みつさだ〜…」
御飯に味噌汁、焼き魚の他にサラダの盛り合わせと、そこそこに美味しそうな料理が並ぶ。
全てテーブルへ並べ終わるころには二人とも、新聞読んだり泣いたりするのも止めて席についている。
「…あれ?ヒメア姉さんは部屋だとして、アスカは?」
「ん?アスカなら今日は朝から練習があるとかでもう出掛けたぞ?」
「あぁ〜、そういや昨日言ってたっけ〜……あぅぅ〜…あたまいたぁ…」
光定からすればそれは初耳な訳だが、そんな事も気にせずにシグレやミナは料理へ箸をつけていた。
どうやらいつも通り美味しく作れたらしく、二人とも食べた後の表情が少し綻んでいる。
「…うん、今日も光定の作る御飯は美味しいな」
「これから毎日、私の為に味噌汁を…あぅ!」
冗談を言おうとしたミナへ鉄槌なのかは知らないが、シグレがミナのフラフラと揺れる尻尾を机の下でギュッと握っていた。
獣の爪がミナの尻尾に食いこんでなんとも痛そう。
ここで少し疑問が浮かび上がった。
シグレはさっきから箸を使って朝ごはんを食べている訳だが、あの獣の手でよく箸を使えるものだと思う。
器用に指を使っているのならまだしも、どう見たって掴んでいるようには見えないし、指の間に挟むだけなように見える。
「……何を見ている?」
「え?いや別に何も…」
「あぁ〜ん!みつさだ〜!だずげで〜!」
不機嫌そうに睨みを利かせて、シグレが光定を睨む。
それと一緒に、ミナの尻尾を握る手に力を込めた。
相当痛いのかそれとも気持ち良いのか、痛がって涙目になっているミナの顔は上気してほんのり紅く染まっている。
尻尾もウネウネしていたさっきまでと違ってピンッと伸びてプルプル震えているし、普段は小さくして隠している翼もピンと伸びて硬直している。
「はいはい、それじゃもう行くから」
「あぁ、気を付けてな」
「あひぃぃぃぃ!!」
笑顔でそう言って見送るシグレだったが、その手は未だにミナの尻尾をギュッと握ったままだった。
ミナの気持ち良いのか痛いのか分かり辛い嬌声を耳にしながらも、光定は家の扉をくぐるのだ。
―――――――――――――――――――――
「ふぅ、これで今日も終わりかぁ…」
学校での授業を終わらせて、教科書類を集めてカバンの中へと詰め込む。
もう太陽は低めの位置に陣取っていて、あと1時間もすれば山の向こう側へ消えるだろうと想像は容易い。
しかし、普通の学生ならばここで終わりなのだろうが光定は終わりでは無い。
「……なんで毎日…」
そんな事をボソリと呟きながらも、光定は今日もアルメリアへと足を運ぶのだ。
――――――――――――――――――
「う〜ん……う〜ん………あっ!ダメ破く〜ん!」
「仁賀さん!おはようございます♪」
いつものようにアルメリアの裏口から店内へ入ると、廊下の出入り口の所で首をかしげてウロウロしている仁賀の姿を
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