「いらっしゃいませー!」
「安いの揃ってますよー?」
「奥さんお一ついかがですかー?」
ここは、大きな国の端っこに当たる場所にある商業街。
数ある店が所狭しと軒を連ね、自分の集めた品々を、はたまた自分で作り上げた品々を売り捌く事のみに重きを置く街である。
昔は街に名前なんかもあったらしいが、コロコロと変わり続ける市長の所為かいつの間にか街としての名前は消えて行く。
今となってはこの街の名前を覚えている者などそうは居ないだろう。
なにせ、腹の足しになりもしない。
「おとぉさん!これ!これ!」
「ちょっ!チコ待ってって…おっ?!これだ!探してた種!すいません、これください」
「あらあら、アナタすっごく目がキラキラしてる♪」
どうやらまた一人、この街へ金を注ぎにやってきたらしい。
家族連れのようだが、店員が内心焦っているのが動きで分かる。
何せ彼の両脇でキャッキャと笑っている親子は、どちらも魔物娘なのだから。
二人ともが同じ種族らしく、抜け落ちた花弁で作ったであろう洋服はとても妖艶で、そう「妖服」とでも言えばいいだろうか?
まぁ、それくらい派手な衣装を身に纏ったアルラウネの親子だったのだ。
どういう経緯か知らないが、全国に配布されている魔物娘大百科。
そのナンバリングで堂々のNo.001を飾っている植物種の魔物である。
その経緯は諸説あり、編修者の妻がアルラウネであると言うものから、果ては適当にナンバリングしているだけと言う説まで様々であった。
まぁとにかく、彼女たちはこうして今日も夫と言う名の財布を駆使して買い物を続けるのだろう。
「……しっかし、あっちも大変そうだよなぁ…」
かく言うこの私、「ラルフ・ウォーリー」もそんな商人たちと肩を並べて物を売る仕事に就いている訳で。
今現在はと言うと、そこらに落っこちていたような木の枝や石ころ等を加工して、日用品を販売している。
とは言っても売り上げは芳しくなく、売り上げた物と言えば奇妙な形の石をはめ込んだ弓矢くらいであろう。
「まぁ…こっちはこっちで大変かぁ…」
と、来る予定も無い客を待ち続けるだけで過ぎ去っていく時間を惜しみながらも溜め息を吐く。
「………」
「あぁ、タコだ…なんかスルメ食べたくなってきたな…」
「…………」
やっと客が来たかと思えば、その客はどうやら下半身がタコのようだった。
商品のどれかをジッと見つめながら自分の指を銜えて物欲しそうに、食い入るように見てるんだろう。
視界にタコの足が入って来た途端にスルメが食べたくなってしまうと言う事は、相当腹が減っているのだろうと分かる。
そしてこの客だが、どうやら何も言わず商品を見ているだけらしい。
「…(…ひやかしか?…)…」
「………」
尚も商品のどれかをジーッと見つめていた少女だったが、こちらとしてはいい迷惑だ。
客が来ないとは分かっていても、同じ客がこうも場所を独占していては、客が来る機会を潰しているような物だから。
もう少ししたら追い払ってやろうかと考え始めた頃。
「はぁ…はぁ……クト…やっと見つけたぞ?」
「……っ♪」
「なんだ子連れ…」
「夫婦ですっ!!」
人ゴミを掻き分けて、見た感じ頼りなさそうな男が走って来た。
どうやらこの少女の保護者らしい。
夫婦と言ってはいるのだが、どう見ても親子にしか見えないだろう。
だってこのスキュラの少女、抱き合ってるから分かるが男の腹あたりに頭のてっぺんが来るくらいの子供だ。
何をトチ狂ったら、こんな少女が妻と認識できるのかが理解出来ない。
まぁ、理解したくも無いが。
「…で、何を見てたのやら…」
「……っ…」
「ん?これ?いいよ。店主、これを下さい」
彼がそう言って無造作に並べられた日曜大工の品々から掴み取ったもの。
それは、つい先日歩いている途中で拾ったどうでもいい形の石だった。
ただ、流石に何も加工していない物を売ったとあっては店の名が廃ると言うもの。
この石にはちょっとした細工を施している。
掴む部分の中身を空洞にして、筒状に加工して少し余裕がある程の小さな石を詰める。
そこから伸びるようになっていた部分も空洞にして、上の部分に特殊な形の穴を開ける。
こうしてやることで、出っ張りを銜えて息を吹き込むと、中の石がコロコロと転がるのと圧縮された空気が外へ逃げ出して行くのとで、綺麗な音色が生まれる。
どこか遠い地では「ホイッスル」と言う愛称で親しまれる小道具である。
「はいよ。ついでだし……そうだ、これをこうして…」
「…っ………ふふっ♪」
「おぉ!ありがとう!それじゃクト、行こうか…」
決めておいた金額を受け取って、ホイッスルを手渡そうとしたその時。
手に持つホイッスルに少々の違和感を覚えたのだ。
見てみれば、手持ちの
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