時は戦国、火の手の絶えない動乱が続く時代…
から数十年が過ぎ去り、現在は安寧の世を迎え、人々は平和な日々を過ごしていた。
「はぁぁぁぁ……あの人は帰って来ないし、やることないし…はぁぁぁ…」
机に突っ伏しながらため息を吐くこの少女こそが、この物語の主人公にしてヒロインである。
その名は「アヤマル」と言う。
魔王の代替わりの直前に男として生を受けたものの、すぐに魔王が代替わりし身体は女性のソレへ入れ替わる。
よって、名前のみが男性らしさを残したという奇天烈な過去を持つ。
元は上流階級のカラステングの子息だったのだが、代替わり後に両親ともに母親になりそれぞれ別の夫と生活中。
かく言うアヤマルも、旦那は居るのだが…
「はぁぁぁぁぁ……早く帰ってきてくださいよぉ…」
ここ数週間の間は、旦那が出稼ぎへ出掛けていて会えないでいるのだった。
寂しさを紛らわせるために小説や絵なんかも書いてみたが全てがダメ。
旦那の元へシュバッと飛んで行きたくても、旦那が出掛ける際に「帰ってきたらうーんと楽しもう?」と言っていたのを思い出して自粛。
実家に帰った所で聞こえてくるのは喘ぎ声ばかりで腹が立つ。
「……んぁ?これは……読売ですか…」
ふと、窓の隅に置かれた丸められた紙を見つけた。
ノソリとした足取りでそれを取り、中身を改める。
中に書いてあったものは、旦那が出稼ぎへ行っていた鉱山の発掘作業が終わり、笑顔で帰還していく旦那達の聴取だった。
中身を良く探すと、旦那のものと思しき聴取が見つかってアヤマルの表情がどこか和らぐ。
「『早く帰ってカラステングの妻にただいまと言いたいです――20代・男性』ですか……うふふっ♪」
読売を広げ、その中身を読んでニヤニヤしているその様は、傍から見れば怪しい人以外の何者でも無い。
それと同時に、これはいいものを見つけたと言わんばかりの表情で読売を穴が開きそうな程見つめた。
「そうですよっ!私も作ればいいんです、読売をっ!?私ってば頭いい〜♪」
そう叫び、机の上に何処からともなく紙と筆を置く。
実は旦那のプレゼントであるこの机には少々面白い仕掛けが施されているのだ。
机の手前側に小さなくぼみがあり、それを勢いよく叩くと、反動で扉が開き中から筆と硯が飛び出す仕組みになっている。
旦那が、実家に置いてあった設計図から作り上げたらしく、作り上げた時の笑顔をアヤマルは忘れられないでいた。
「えっへへ〜、さて何を書きましょうかね〜♪」
墨を用意し、筆を握り、机とにらめっこを始めるアヤマル。
その表情は誰が見ても真剣そのものであった。
―――――――――――――――――――――――
「う〜〜〜〜〜〜ん………う〜〜〜〜ん……」
一体、どれだけの時間をこうやってにらめっこしているだけで過ごしただろうか。
当の昔に日は傾き赤茶けた空が一面を覆い、遊びから帰って来たのであろう子供たちの声や仕事から帰って来た大人たちの声が行き交う。
そんな雑踏をすぐ近くに感じながら、アヤマルは只管に読売の文面を考えていた。
「……どぅあ〜〜〜〜〜〜〜っ!何も思い付きません〜〜〜っ!!」
遂には怒りのタガが外れてしまい、筆を地面に叩きつけて自分の頭を掻き毟り始めてしまう。
「はぁっ……はぁっ……あぅぅ…」
まるで気が狂った狂人の様なポーズを取った後、アヤマルは改めて自分の状況を整理しようとした。
しかし、血眼になって考えていた文面の数々を思い出してしまった所為か、頭に血が昇り過ぎて急に意識が遠のいて倒れそうになる。
「危ないっ!」
「はぅぁ……あぅぅ…ご、ご主人〜…」
バランスを崩し倒れそうになった所へ、アヤマルの旦那が駆け付けた。
間一髪、彼女が倒れる前に手を伸ばし、あわや大惨事となる前に力強く受け止め抱き上げる。
「ひゃいっ?!ご、ご主人っ!?」
「良かったよ、アヤマルが無事で……ただいま♪」
まさか旦那に受け止めて貰うとは思っても見なかったアヤマルは、つい驚いて飛び跳ねた。
鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていたアヤマルを見て、仕事帰りだった旦那の表情が自然と綻ぶ。
そのまま、旦那がアヤマルをお姫様抱っこで抱き上げる。
「ご、ごしゅっ…」
「…たまにはご主人じゃなくってちゃんと呼んで欲しいな」
お姫様抱っこのままの状態で、慌てて喋ろうとするアヤマルの口を、旦那がキスをして塞ぐ。
暫くの間、舌を絡ませるでもなくお互いにそのままの状態を維持していたが不意に唇を離す。
「は、はいっ……えと……く、九郎…」
「うん、それでよしっ♪」
いつものようにどこか余所余所しさを感じさせる呼び方では無く、名前で呼ばれて笑顔を向ける九郎。
作り笑いの一切感じられない、愛情の籠った笑顔に心を打たれたアヤマルは顔を真っ赤にしてしまう。
腕の羽根を
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