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「もう親父たちなんて大嫌いだっ!」
「っ!?待て、飛鳥っ!?」
大声が夜の帳に響き渡り、一つの家から少年が飛び出し去っていく。
「全く……稽古が苦しくてやってられない等と…」
そうブツブツと呟きながら、中年の男性は溜め息を一つ吐くと、すぐに困って帰ってくるだろうと思い家に戻った。
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「もう二度と帰るもんかっ!親父なんか…親父なんか…」
そう呟きながら、少年はひたすらに走っていた。
気が付けば茂みに入り、野原を抜け、森の中にいたのだが、当人は気付かず走っていく。
「はぁ……はぁ…も、もう疲れた…」
そりゃ、5km程も走っていては疲れが出ない訳が無い。
極端に息が切れて、足が棒のようになって言う事を聞かない。
その上、ここはどことも分からない場所という不安が心を抉る。
「はぁ…はぁ…と、とりあえず休憩を……う?」
丁度良い大きさの岩を見つけた飛鳥は、とにかく休憩しようとその岩に座り込む。
しかし、それがいけなかった。
「う、うわぁぁぁああああああああああああっ!?」
岩に座り込んだ途端、岩が崩れて崖に落ちていく。
踏ん張ればなんとかなっただろうが、今の飛鳥にそれだけの余力は残されていない。
そのまま岩と一緒に崖を落ちていく。
このまま死ぬのだろう。
そう思った矢先に、飛鳥は意識を手放した。
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「―――い!おーい!大丈夫ー?!」
声がした。
聞いた事無いような可愛らしい声だ。
しかし、なぜそんなにも泣きだしそうな声音なのだろう?
まるで瀕死の人物に話し掛けるかの様じゃないか。
と、そう飛鳥が思った頃には意識がハッキリしはじめていた。
「うぅん……」
「っ!生きてるっ!よかった〜…」
物凄く安心したのか、声の主は大きく息を吐いているようだ。
と言うのも、今この状況で、何故か眼が開けられないのだ。
何かを被せているような、そんな違和感があるのが分かる。
となれば、それをどければいいだけの話だ。
「んしょっ…君が助けてくれ…」
「…?どうかした?」
飛鳥の目の前にいた声の主。
それは、飛鳥が頭の中でコッソリとイメージしていた人物像とは全く違っていた。
別に、声は可愛いのにブサイクとかそういう物では無い。
何より、彼女の身体を通して反対側の景色がごくうっすらと見える。
つまり彼女が半透明なのだ。
半透明の身体を持つ魔物を、飛鳥は知っていた。
色々な色彩を持つゲル状の身体を持つ魔物の娘。
スライムと呼ばれる魔物の娘が目の前に居たのだ。
「ま、魔物…」
「…?」
魔物だと分かった瞬間、反射的に少女から離れる。
その様子を見て、何が何だか分からない風な少女は首をかしげて飛鳥を見ていた。
「な、なんで…」
飛鳥の周りの領地は反魔物領とも言える場所であり、近くで魔物が住んでいるというだけで駆逐に向かう連中がいる。
そんな中で育った飛鳥は、家族や知人から魔物は恐ろしい物だと言う事をキッチリ教えられている。
そして、目の前にはその魔物娘がいるのだ。
驚き、そして何より恐れない訳が無い。
「そうだ!長老に報告しなきゃ…」
「…へっ?」
急に立ち上がった少女に驚き、身構え怯える飛鳥。
しかし、そんな飛鳥を置いて少女はどこかへ去ろうとする。
「あっ!そうだ、君も一緒に行こう?」
「へ…う、うわぁぁぁっ!?」
まるで角材でも担ぎあげるかのようにヒョイッと飛鳥を持ちあげた少女は、そのままどこかへ飛鳥を連れて行った。
その間、飛鳥がジタバタしていたのは言うまでもない。
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「――と、言う訳なの。長老、なんとか出来ないかな〜…」
「いいから落ち着きなさい!それと長老もやめてっ!私そんなに年じゃない!それと貴方の言いたい事は全部分かってるから!」
どろどろの液体が人間の形を取って会話している。
飛鳥の目には、どう見てもそうとしか映らなかった。
片方は、先程まで飛鳥を運んでいた一人の少女。
もう片方は、どこか気品にあふれる姿をした、やはりスライムだった。
良く見ると、村長と呼ばれた彼女にはもう片方と違い、紅い球体が体の中でプカプカと浮かんでいる。
装飾かとも思っていたが、スライムの構造を知っていた飛鳥は、数十秒の内にそれが何かを思い出す。
それはコア。
心臓部分にあたる、スライムの身体の中で一番重要であり大事な部分。
それが、村長の胸にはあって少女の胸には無い。
「全くもう……それで、君?」
「は、はいっ!?」
村長に呼ばれ、飛鳥は身体が硬直してしまう。
親などの大人に怒られる前の様な恐怖感とはまた違う。
心がドキドキして身体が反射的に反っただけのように思える。
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