雨があがって気持ちの良い日差しが地を照らす。
しつこくないほどに丁度よく湿った空気。
魚たちを脅かす事も無い程度に増えた川の水。
虫たちを阻害しない程度に濡れた地面。
それら全てが、この少年には心地よく感じられた。
「ふぅ……気持ち良いなぁ〜♪」
柔らかな風に当たりながら、少年はそう呟く。
この小さな小川は、彼にとって思い出のある場所である。
父親と良く水澄ましをして遊んだ小川。
初恋の芽生えと別れを味わった小川。
友情の種が芽生えた小川。
その他諸々の思い出が、少年の心を研ぎ澄まして行く。
「……」
何をするでもなくただ地面の上に座り込む少年。
その眼の先の川には、今も小魚達が群れを成して泳いでいる。
こんな静寂と平穏がいつまでも続く。
そう信じていた少年の前に、大きな転機が舞い込む。
「………」
「今日も何も………っえぇ?!」
流れてきたのは、明らかに人間だった。
気絶でもしているかのようにプカプカ浮かぶだけで全然動かない。
そのまま川の流れに流されて行きそうなのを、少年は慌てて止めに行く。
ここからさほど離れていない場所に、それほど高くは無い物の滝が存在しているのだ。
落ちても着地出来れば無傷だろう。
しかし、あの少女は動かない。
あのまま滝へ落下してしまえば、無傷では済まないだろう。
「うんっしょ…」
なんとか少女に追いつき両腕をガッチリと掴む。
これでも親を背負える程度には腕力があるつもりだ。
自分の持てる限りの力を使って、少女を岸に引き摺る。
暫くして、少女を岸に引き揚げる事に成功した。
「大丈夫?!ねぇ!ねぇ!」
「……」
何度も必死に呼びかけるが返事が無い。
まるで死んでいるかのように全く動かないのだ。
「そ、そうだ…人工呼吸で…」
彼は知っていた。
人工呼吸の仕方を。
正確には見て真似る程度の物だが。
以前、友人たちと一緒に遊んでいて一人が溺れた事があった。
誰も助ける方法が分からない中、彼の父親が懸命に処置を施してくれたのだ。
結果、友人は助かった。
「え、えと……まずはこうして…」
「……」
顔を真っ赤にしながら自分の唇を近づけて行く。
その先には意識のない少女。
唇と唇が重なりそうな距離まで来て、彼の接近は急停止した。
「…(どどど、どうしよう…これってせせせせせせ、せっぷん…だよね…?)」
そう考えながら自問自答していた彼だったが、ここでハプニングが起こる。
「……っは!」
「ふぇ?んむっ…」
目の前で意識を取り戻した少女。
彼女は、驚いて上体を起こそうとした。
しかし、彼女の目の前には勿論彼の顔がある訳で。
そのまま図らずも互いの唇は重なり合う。
「んんっ?!?!?!?!」
「っ?!?!?!」
互いに眼の色を白黒させながら余りの驚きに動けなくなる。
少年にとってはこれが初めてのキスだ。
外国では挨拶代りにしていると小耳に挟んだ事がある少年だがここはジパング。
そんな風習、ある筈も無い。
「プハッ……な、なんなの君…」
「な、なんなのって…」
頭の中が混乱してしまった少年は、少女の問いに答える事が出来ないでいた。
「……ひより…」
「…へっ?」
「ひより!私の名前!あんたは?」
唐突に自己紹介が始まった。
と言うより、今まで状況が状況だった為分からなかったが、彼女の肌は人のそれとかけ離れている。
現代の映画で見るようなゾンビの皮膚の様に、翠掛かった色をしている。
まぁ、ゾンビのように腐敗はしていないが。
更に彼女の着ている服装も変だった。
着物でもなければ動き易い服でも無い。
これはそう、現代に於ける『白スク水』である。
時代的にまだ発明すらされていない物なのだが、そんな事を両者が知ってる訳も無い。
だが、そんな事よりも一大事が起こっていた。
そう!白いスク水は、ある理由から使用している所は殆んどない。
その理由とは!
「……な、なに見てんのよ…」
「い、いや……なんて言うか…その…」
「…?………っ!?この変態っ!」
そう、スク水が透けてうっすらと乳首が見えているのだ。
乳首だけでは無い。
身体中に張り付いてヘソや股間等、見えづらい部分までが透けて見えている。
なんとも慎ましい小さな胸が、その平らで起伏の無い身体が、まだまだ育ち盛りで成長途中の顔が。
全て濡れていて妖艶さとも可愛らしさとも取れる魅力を撒き散らしていた。
「……て言うか、アンタの名前!」
「あっ、良太…」
自己紹介をして互いを知った二人。
良太とひよりの物語は、こうして始まりを告げる。
――――――――――――――――――――――――――
それから数日後。
「ひより〜?お弁当持って来たよ〜!」
「……」
「あれ〜?ひより〜?どこ〜?」
初めて会ったのと同じ場所。
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