「今日もこれで終わりかぁ…」
一人の青年が、勤務を終えて自宅への帰路に就く。
いつもと何も変わらない、同じ道で同じ時間だ。
強いて言えば5分ほど帰りが遅くなっているくらいか。
そんな時だと言うのに、彼はこれから自分の人生を大きく変えるであろう事に遭遇する。
それは間もなく訪れた。
「――それで、よいのじゃな?」
「……うん…」
二人の少女の話声が聞こえてきた。
丁度人通りの少ない道だった為、その声は路地裏から表通りにいる青年の耳にも届いた。
そして、その声を青年はいつも耳にしていた為反応してしまう。
例え、それが聞き分けてはいけない声だったとしても。
「……リィル?」
そう、青年の耳にした声の正体。
それは、彼の義理の妹であり家で御飯を作ってくれているであろうリィルの声だったのだ。
声の質からして何か思い詰めたような感じだったのが心配になった青年は、リィルの声が聞こえた路地裏へと入って行く。
もう既に声の正体はどこかへ消えている。
「バー……なんて読むんだ?これ…」
彼が足をとめた場所。
それは、この路地裏の中に唯一入り口の存在する店だった。
外装は古風なレンガ作りで、看板にはこの国の物では無い言語が使用されている。
この国の者には分からないだろうが、英語訳で読むとするならば「sabbath」と書かれていた。
明りに相当する物は、壁に立て掛けてあるランプ位だろうか。
しかし、そのランプも中にある蝋燭は消え入りそうな小さな物になっていた。
「あいつ……ここに入って行ったよな…?」
店の前に立つ青年。
すると、何処からともなく鼻を刺激する何とも言えない匂いが脳を突く。
タバコなどの嫌な匂いの類では無いにしても、これを好きかと言われれば断じて違うとしか言えない匂い。
強いて言えば、甘ったるい陶酔を誘う匂いと言えるだろうか。
そんな匂いが、扉越しでも分かるほどに漂ってきている。
こんな中に数時間も居れば、意識が朦朧としてくるだろう。
「と、とりあえず入って…のわっ?!」
青年が扉に手を掛けた。
次の瞬間、何かの罠が作動したように見えた。
握ったノブから数十本に及ぶ気味の悪いヒルのような無機物が青年の手を包み込む。
一瞬喰われるかとも思った青年だったが、彼がノブから手を離すよりも早く、無機物達は彼の手を離れる。
そして、ドアの中心部で文字を形作って行く。
形作られた文字たちは以下の通り。
名前:リーノ・トライツェフ
年齢:20
性別:男
現家族構成:妹のみ
招待対象○
どう言う意味か、彼には分からなかった。
書かれているのは自身のプロフィールに違いない。
だが、最後の一行の招待対象○の意味がまるで分からなかったのだ。
しかし、その答えはすぐに分かった。
『一名様、ごあんな〜い♪』
『ごあんな〜い♪』
どこからともなく、おそらくは扉の向こうからだろうが、数人の女性の声が聞こえてきた。
あどけなさがある少女の様な声だったが、それに気付く間もなくリーノはいきなり開いた扉に飲み込まれるように店に引き摺りこまれた。
そして、つい先ほどまでリーノの居た路地裏には、またしても沈黙が広がって行く。
「いってて…」
「おきゃくさま、だいじょうぶ〜?」
「あぁ、うん…」
どうやら、引き込み方が強引過ぎたらしい。
リーノは店に入ると同時に盛大に転んでいたのだ。
その音に、店の従業員らしき女の子達が一斉にリーノの方を向く。
そう、女の子達。
この店の従業員と思しき女の子たちは皆、まだ働くような年齢ではなかったのだ。
まだ母親に甘えて暮らしているか、勉学に励んでいるような、年端もいかない少女達ばかりが、この店で働いているようなのである。
「あれ?おきゃくさまみたことないよ〜?」
「えぇと、俺も君を見たのは初めてだと思うんだけど…」
「えっ?!初見がここに来れる訳無いじゃない!どう言う事よこれ!?」
メガネを掛けたどこか抜けているような感じの少女が、リーノを心配して頭の辺りに手をやってオロオロしている。
彼女の言動から察するに、ここは初見お断りの店と言う事なのだろうか?
どうやら、この現状に混乱してなのか近くに居たツインテールの女の子も何やらギャーギャー叫んでいる。
「とっにかく!!リーダーに話聞きに行くからついて来なさい?!」
「あぁ、ありがと…」
「っ?!べ、べつにアンタの為じゃないんだから!!」
なんともツンデレチックな女の子だ。
金髪ツインテールロリ魔女服と、それっぽい所は選り取り見取り。
彼女自身がツンデレの生き字引とでも言った方が良いのだろうか。
とにかく、そんなナリの彼女ではあったが、混乱を収束させる為にリーダーの所へ連れて行ってくれるらしい。
「リーダー?なんか初見さん入って来たんだけれど〜?」
「――ちょ
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