「――さっ、これでおしまい。全く、どれだけ怪我をすれば気が済むんだ?キミは…」
「あっはっは……レイシア先生には頭も上がらんね…」
ここは知る人ぞ知る名医、トム・レイシア先生の診療所。
なんでもちょっと前までは大きな病院で副院長までしてたらしいが、結婚を期に診療所へ移ったんだそうな。
そして、その結婚相手と言うのが…
「はぁい、先生♪こんなのどうかなぁ?」
「ナース服というよりは水着じゃないか。不合格」
「え〜っ!?せっかく買ってきたの切って作ったのに〜!…あっ、オッソ・ソン君!また来たんだぁ」
一人の少女が、切り詰めたナース服を着て部屋の奥からやってくる。
多分、この衣装を旦那に見せたかっただけなのだろう事は想像に容易い。
ただ、簡単な名前だからと言って人をフルネームで言うのはどうなのだろう。
まぁ言いやすいのは事実なのだろうが。
「というかホラスズ、客人に目の毒だ、着替えてきなさい」
「ちぇっ……はぁーい…」
「…(………あっ、ヤベちょっと勃った)」
まさか、小学生のような少女にドキッとするどころか勃起していたなどと夫に知られては殴られてもおかしくない。
まぁ、この先生はそんなことはしないだろうが。
どちらかと言えば、自分の嫁を小学生呼ばわりされたりしたら怒りそうだ。
主に自分がロリコンではない云々だろうが。
「やれやれ……さて、オッソ君?キミ、今回で何度目の怪我でここへ来てるんだ…」
「あっはは…恥ずかしながら………覚えてません…」
「それは覚えられないくらいウチに来てると言う事だろう…」
全く以て言うとおりで。
ため息交じりに笑ってくれるのがこんなにも嬉しく思えるモノなのだと初めて感じる。
「全く……なんでそんなに元気なんだか………冒険もそろそろ地に足を付ければいいのに…」
「いやいや、これだけは止められませんよ。なんたって…」
「「生き甲斐ですからっ!」…でしょ?」
ちゃんとした白衣に着替えたスズが、やっと奥から戻ってきた。
やっぱり何度見たって小さな女の子にしか見えない。
とても一児の母とは思えないだろう。
「とにかく、以後は冒険はもちろん、激しい運動も避けてくださいよ?骨にヒビがあるの、忘れてませんか?」
「バッキバキなんですよ〜?………せんせーのもすごいけどぉ…」
「うぐぐ……分かりました…以後気を付けます…」
ここまで言われてしまえば、もう言い訳の仕様がない。
ただスズが、トムにもたれ掛って甘えるような声を出して居たのがすごく気になるが、ここから先は夫婦の問題なのかも知れない。
立ち入ってはいけない範囲であろう。
「とりあえず、いつもの湿布薬と飲み薬を出しときますから、いつもの薬屋で貰ってきてください」
「なので私は先生と、子作りに励んじゃいます……ねぇ〜♪」
「はぁ………ありがとうございました〜…」
どうやらスイッチは入っていたらしい。
フルスロットルと言う奴だ。
鼻息を荒くしながら白衣のヒモを解いていく彼女と、書類を渡しつつ嫁の暴挙を止めようとする夫の姿を微笑ましくも見つめながら、オッソは診療所を後にした。
――――――――――――――――――
「あれから一か月………もういいだろ…」
なんて自己診断を信じ、逸る気持ちを抑えつつもオッソはきつい坂道を上っていた。
彼がワクワクしているのは何故かと言うと、新たな冒険の場所が見つかったからだ。
「オラーガ山脈……こいつも制覇してやるぜ……」
怪我からの復帰と共に、彼が最初に到達しようとしていた目標がこの山であった。
標高は5000M級の高さを誇り冒険者の良い冒険スポットとして知られていた。
ただ、彼が目指していたのは冒険者の為に作られたロープ伝いの半人工的な道ではなく、もっと直線的な、人跡未踏の進み方である。
雲の高さを超えたあたりに居た彼は、もう遥か彼方ではあったが、山頂をその目に見つけていた。
ただ…
「……なんて言ってたのか……おれは…」
目的であったショートカットが祟ってか、体中にガタが来ていた。
これではもう冒険を続ける事もままならないだろう。
せめて、どこかで休憩する事が出来ればよかったのだが、この辺りにそんなキャンプやコテージなんてある訳も無く…
と、諦めかけていたオッソだったが…
「……おれ……夢でも見てるのかな……城だ…」
薄く霧がかかった中、目の前に一軒の古城が姿を現した。
まるで大昔のファンタジーなお城のような作りをしているが、大きさはさほどもなく、見た目からして富豪の別荘だったのだろうと思われる。
まぁ、どう見ても人の手から長く離れていたように朽ちているが。
「うぅ……不気味だけど………ここは入るっきゃないか…」
気が付けば城の目の前まで来ていたオッソは、恐る恐る城
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