朝、目が覚める。
それはたいていの人が毎日繰り返す『当たり前』の事で、それを数えている人なんて、ほとんどいないだろう。
ボクの母は例外の一つだ。
ヴァンパイアであるボクの母は当然だが夜行性で、月が昇るとともに目を覚まし太陽が顔を出しかける頃には眠りにつく。
たまーに気まぐれで朝ふかししたり大事な用事で朝に起きたりすることもあるが、その回数は生きた年月に対してごく少ない。
最後に聞いたとき、確か52回と言っていたか。
ボクは母の娘ではあるが、ヴァンパイアではなくダンピールである。
だから朝目が覚めるのが当然のことで、母とは違い朝目覚めた回数なんて数えていない。
されどボクは夜に目を覚ますことだって多い。
暑い季節や地方によっては太陽の出ていない夜のうちに歩みを進めることだってあるからだ。
だからボクは夜に目覚めた回数だって数えていない、そもそもそんなことに意味が見出せない。
だけど、どちらが多いかと言えば当然朝日とともに目が覚めることが多い。
運命とは奇妙なもので、母はその数少ない朝目覚めた日に、
ボクは比率で言えば少ない夜に運命の出会いを果たした。
何もかもが真逆なボクと母だけれど、こういうところは似通ってしまうらしい。
***
「……ん、んん」
今日は、朝の目覚め。
また少し目覚めの比率を人間的常識の方に傾かせながら、掛け布団をどかした。
「ん、んん〜っ……はぁ」
勢いよく、伸びをする。
寝ている間に凝り固まった筋がググッと伸びて気持ち良い。
朝6時、うん、いつもの時間だ
生理現象で出てきた涙を拭いながら、ベッドから立ち上がる。
宿の寝衣を脱いでシャワールームへ。
少し熱めのシャワーを浴びて、寝汗を流す。
髪を拭いながら、元の部屋へ。
ピッチャーから一杯冷たい水を注いで飲み干して、木枠の窓を開けた。
うん、良い朝だ。
早朝ゆえにまだ人通りは少ないが、早いとこではもう煙突から煙が昇り始めている。
「さて、と」
ボクはクルリと体を右回れして、先ほどまでボクが眠っていたベッドの横にもう一つあるベッドへと歩み寄る。
そこには掛け布団にくるまった小さな人の姿。
横向きに寝転んで呼吸で僅かに動くその肩に、ボクは手をかけた。
「朝だよ、起きて」
ゆさゆさと優しく揺さぶってあげる……しかし、まるで反応が返ってこない。
なんだかいつもよりも更に眠りが深い気がする……そういえば昨日、ラガーを少し強引に飲ませたっけ、それかもしれないな。
「こらー、おーい、起きるんだ」
もうすこしだけ強めに。
うん、少しだけ身じろぎした、あと少しあと少し。
「ぐっも〜に〜〜ん、おきなよーー朝だよ〜〜」
ひょっこり除く耳をくにくに指先で揉みながら、間延びした声で呼びかける。
そこまでしてやっとお布団ミノムシがモゾモゾと動いて、掛け布団に埋まっていた顔がこちらを覗いた。
「うん、おはようダヴィ」
「……おはようございます、キトリーさん」
ダヴィ=ロスレック。
浅黒い肌にほっそりとした体のこの寝坊助さんは、このボク、キトリー=ヴォーコルベイユの旅のパートナーである。
***
朝市の活気というものはいつ見ても心がウキウキしてしまう。
あの後ダヴィはパパッと身支度を整えて出発の準備を終わらせたので、ボクらは活気賑わう市場ををゆったりと眺めて歩いていた。
人ごみの中でもはぐれないようにダヴィの手はしっかりと握ってある。
ダヴィの方からもぎゅっと握り返してくれるから、なんだか少し気恥ずかしいきもする。
「馬車を借りてあるから、それに積みこむ食料を買わなければいけないね、それと水。あとは……お酒も、少々」
「ラガーですか?」
「いやダメだ、ラガーは冷えてなければ認めない。ジパングのコキジにも書いてある。ここはワインにしよう、この市場ならラトアーヌワインがあるかもしれない」
ダヴィにそう告げて、かのラトアーヌワインの味を思い出す。
あのワインは、素晴らしいものだった。
あまりなの知られていない、知る人ぞ知るという製作者の名を冠したワインは極々シンプルながら、故に深い味わいを創り出している。
ボクが飲んだのは64年ものだったけど、いつかは傑作と言われている62年ものを頂きたいものだ。
「まぁそれは余裕があったら、ね。まずは食べ物だ。さあ行こう。ダヴィは希望はあるかい?」
「いえ、キトリーさんの好きなものを選んでください」
「……うん、そうか。じゃあ食事に出てくるとダヴィがすぐに手をつけるチーズを買っちゃおうかな」
「……チーズ……ですか」
「チーズやめた、見ながら決めよう。ほら、ダヴィおいで」
ダヴィの手を軽く引いて、雑踏をかき分けながら生鮮市場へと向かっていく。
……しかしまぁ5ヶ月前と比べて随分なついてくれたものだと、出
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