一人称視点バトルパート

ラムルピュールへと続く道は、暑くて長い。
一年を通して温暖な気候の続くこの土地は、土地ならではの生態系が広がっていて、いつ通っても驚きを感じる。
だが、過酷な道のりは商人や旅人にとっていつも頭痛の種だ。

大規模な食料品の輸出地であるものの、親魔物国家における食糧需要は案外と低いものだし、ラムルピュールと大都市をつなぐ中間の村や町はあって一つ、その一つで補給を済ませてまた長い道のりを進まねばならない。
また、その暑い気温は体力だけでなく水を多く消耗させるし、生鮮食品なんかはアシが早くなってしまう。
そのため、観光地としてなかなかに人気はあるが、ラムルピュールと他の都市を定期的につなぐ商人というのは、意外なほど少なかったりする。

「ふんふんふ〜んふんふんふ〜ん……♪」

「……くぁ、ァァァァァ……」

そして、そんな数少ない商人が、私の眼下で鼻歌交じりに魔界豚を操る人、ラトゥールさんである。

「ん〜?眠そうだねぇ、ノアくん。眠気覚ましに少しどうだい?」

「仕事中ですから、遠慮しときます」

「つれないねぇ……」

ラトアーヌさんは誘いを断られたことに苦笑しつつ、左手に握るボトルの中身を口に流し込む。
毎日のように見てるけど、相変わらず豪快な飲み方だ。

「さぁロビュスト、頑張ってくれ、もう少し進んだら野営の準備をしよう」

ラトアーヌさんは自分のまたがる生物、魔界豚のロビュストの背中を撫でるように叩き、労いをかけ、ロビュストはそれに応えるように鳴く。
長いこと商いの旅をしている彼女らの信頼は厚いのだろう。

(よくもまぁ、こんな重いもん背負って……魔界獣ってのはすごいもんだなぁ)

私は自分の腰掛ける大きな樽に目をやった。
ロビュストの歩行に合わせてゆらゆらと揺れるその大きな樽にはたっぷりとワインが詰まっている、その樽が四つ。
保存魔法のかけられた樽の中身のこのワインは、ラトアーヌさんの作る『サテュロスワイン』、その中でも特に珍重される『シャトー ラトアーヌ』だ。
ラトアーヌさんは製造するに適した北でこのワインを造り、南の街ラムルピュールへと輸送しているのである。
そして私は、彼女の護衛を務めるしがない雇われ傭兵だ。

「……んっ」

水筒で喉を潤し一息ついた私は、改めて周囲に気を配る。
ラムルピュールと他国を定期的に行き来する商人は、確かにさほど多くない。
しかし、そもそも周辺に街が少ないため街道も少なく、その限られた街道を通らざるをえないため、人の行き来する密度自体はそれなりだ。
そして、それを狙う野盗共というのはなかなか絶えない。
いつ襲いかかられても対処できるよう、私の左手は傍の剣の柄に、右手は盾にかけられている。

「そうピリピリするのはやめたまえよ、山間の忘れられた都市の住人じゃあるまし」

「……?」

「ああいやなんでもない、君は狩人などではないから知る必要はないよ」

なんだかよくわからないことを言われたが、これが私の仕事だ、気をぬくことなどできない。
……しかし、気疲れで肝心な時に力を発揮できないのも困る。
見晴らしのいい草原を見渡して動くものがないことを確認した後、私は両手を膝の上に置いた。
……今日は、暑い。
水筒の中の塩水をもう一口。
汗によって、体の中の水分と塩分が失われて熱中症に陥る。
水だけではなく塩分もまた補給しなければならない。

「and so here we are lovers ♪lost dimensions ♪」

だというのに、ラトアーヌさんが口にするのは先ほどからワインばかり。
この炎天下の中帽子もかぶっていないというのにどうしてピンピンしていられるのだろう、歌まで歌っている。
私は分厚い白マントを頭からかぶっても辟易しているというのに……まぁこれが魔物娘と人間の違いだろうな。

……む。

「burning supernovas……おや、ノアくん、どうしたのかね?」

「仕事の時間のようです」

「む」

私の言葉を聞いた途端、ラトアーヌさんは顔を顰めさせた。
弓を手に取り、矢をつがえ、引き絞る。

(あれで、隠れているつもりなのだろうか)

私は、その矢を放った。

「ガアァッ!」

「うおぉ!?」

「曲がった!?」

悲鳴が響き渡る。
大岩の陰に全身を隠れていた男の肩に、異様な曲がりを見せた矢が命中したのだ。
死にはするまい、魔界銀製の矢だ。

「ノアくん、盾は買い換えたかい?」

「いえ、まだです」

「盾で殴るのはやめたまえよ。前から買い替えるよう言ったのに。向こうで買ってあげよう」

「……」

攻撃手段を、あろうことか傭い主から奪われた、全く向こうは躊躇なく殺しにくるというのに。
まぁ、負ける気はないが、毎度のことだし。

樽から飛び降り、地に降り立つ。

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