空気の微弱な変化を感じ、閉じていた目を開ける。
部屋の外の空気の流れが変わった。いつもの新聞配達の子か。
窓はまだ閉まっていたか。これではあのハーピーも入って来れないだろう。
窓の方へと移動し、力一杯に押し開けると、朝の眩しい陽の光と、心地よい風が歓迎してくれた。
眼下には街を行きかう人、少し遠くを見れば、海も見える。
ここは教会のとある見張り塔の一室。街を一望できるこの部屋は、マスターの要望により教会に用意させた部屋だ。
しばらく風景に見とれていると、開け放たれた窓から、ばさっ、ばさっ、と翼の音だけが聞こえてきた。
慣れたことなので特に驚くことも無く道をあけてやると、部屋の中に入り込む気配がした。
音だけのハーピーは部屋の中に着地すると、姿をくらます魔法を解除してにまっ、と笑顔を見せた。
「おいっすー、おはよーございます!今日の新聞でっせー!」
相変わらず朝から元気なハーピーだ。街の中には何人もの魔物が姿を隠して暮らしているらしいが、自分はまだ見たことが無い。彼女はこの街で"見かける"唯一の魔物なのだ。
大きなカバンから出された新聞を受け取りつつ、少し雑談を入れる。
「ありがと、今日は何か面白そうな話題はある?」
「おっと!それがですなぁ、この街にまた魔物が一人増えましたな!ネレイスの可愛い娘でしてねぇー、新しい商売先ですわ!」
「へー、それはまた面白いことになりそうじゃないの・・・、だけど、その話、出来ればマスターがいない時の方がいいんじゃないかなぁ・・・」
部屋の椅子に腰かけ、本を読んでいた自分との契約者に目を向ける。
良く言えば、いつも魔法についての学術本などを片手にしている勉強熱心。常に冷静で物静かな知的な男性。
悪く言えば、引っ込み思案で無愛想な日陰者。自分としては、こっちの方がしっくりくるんだが。
そして職業はこの街の教団魔道士。魔物と敵対するニンゲンの一人なのだ。
こちらの視線に気がついたのか、一瞬だけ目をこっちに向ける。
「・・・自ら進んで探すようなことはしない。教団に捕獲を命令されない限り、関係の無い話だ」
さも興味など無い、と言わんばかりにめんどくさそうに返答を返すと、また学術本へと視線を落とした。
「んー、旦那はほんま魔物に対して優しいなぁ、ほんま、今の職業向いてへんやろ・・・」
「あたしも思うんだけどねー、マスターいわく、ここ教会は羽振りがいいんだ、ってさ」
「んー、そうらしいが・・・、にしても皮肉な話やなぁ、魔物を嫌う教団が、対魔物勢力として精霊使いを集めたらしいけど、魔物化した精霊との契約者を使うだなんて・・・」
そう、自分は風の精霊、シルフ。名前はアリア。この名前はマスターに付けてもらったものだ。
昔は魔物ではなかったが、ある日マスターと仕事で魔界に入った際、風の魔力に魔物の魔力が混じって、今は「魔物化した精霊」という分類に入っている。
「教団いわく、『魔物ではなく、あくまで精霊だ』、ってさ。強い力を行使出来るんだから、多少のことには目を瞑るってことかな?まぁ好き勝手させてもらえるんだから、あたし達は助かるんだけど」
「なんやそれやったら利益があるんだったら魔物でもええんかなぁ。そや!やったらこの教会のみんなに新聞配達とかどうやろうか!お互いの利益になると思うんやが!」
「アンタの場合独身男性を見つけて襲う、とか考えてそうだから・・・」
「あちゃーバレたか。くぅ〜!ええんや!あっしの恋人は仕事や!!なんやお宅らなんて羨ましくないんやでこのぉ!」―――
―――一通りハーピーと話すと、彼女はまだ配達の仕事があるから、と部屋から飛び立つ。
「ほいではまた来週〜、毎度おおきにな〜」
そう言って飛び去ったハーピーを見送ると、もらった新聞に目を通す。
「えーと、今週の特集・・・『サキュバス直伝!確実な男の落とし方!』『男の理性が崩壊?アルラウネの蜜のご利用は計画的に』・・・まぁ、いつも通りって感じかなぁ」
しばらく無言で新聞を読みふける。その間も無口なマスターは口を開かない。
当然ながら魔物用の新聞なので、性に関する記事ばかり。
読んでいるうちに、思わず少し身体が熱くなってしまう。
新聞を丁寧に折り畳んで机に上に置くと、体を浮かせて本を読むマスターに近寄り、悪戯っぽく肩にもたれかかる。
「ねぇねぇマスター、最近ずっとご無沙汰ですしー、魔力も減ってますしー、ちょっと朝ごはんがてら補充しておきたいなぁ、って思うんですけど?」
少しだけ魔力を込めて耳元でささやく、大抵の男ならイチコロに出来るような自信はあったのだが・・・。
「・・・・・・」
「・・・ちょっと!無反応とかどうなのそれ!?それでも健全なインキュバスなわけ!?」
「・・・いたって健康だ」
「あーはいそうですね・・・
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