しばらくティルが落ち着くまでそっとしてあげたいのは山々だったが、状況はあまり良くない。この部屋に入る時に殴り倒した教会の人間は、恐らくティルの処刑の時刻になったことを告げに来たのだろう。
その人物が帰って来ない、となるとまた別の人間がすぐにでも様子を見に来きてしまう。それに見張りの兵士も何人か気絶させてきた。もうすでに他の見張りがそれに気がついたかもしれない。
ティルには酷だが、すぐにでもここを脱出しないと。緊張感を伝えるため、少し声のトーンを下げて話す。
「・・・すぐにここを脱出しよう。早く逃げないと、また捕まってしまう」
「・・・は、はい・・・そう、ですね。でもアキト様、どうやってここに?」
「細かい話はあとだ。とにかく、教会の外へ。部屋の魔法陣は壊した、走れるか?」
ティルは少し戸惑うが、すぐに真剣な表情になり、魔法の詠唱を始める。
彼女の足ヒレが無くなり、ヒトの足に変わっていくのを眺めながら、その間に持ってきたティル用の服を取り出す。
魔法による変化が終わるのを確認して、ティルに服を差し出す。くすっ、と彼女の忍び笑いが聞こえ、思わず顔色をうかがう。
「こんなときでも服は用意するんですね、そのあたり、やっぱりヒトの考えなんでしょうか」
「んー、そうだな服でも着ててもらわないと、俺が発情したら困るだろ?」
「くすっ・・・それも・・・そうですね・・・よし、大丈夫です、行きましょう」
軽い冗談を話しながら着替えを終えたティルの手を取り立ち上がらせ、地下牢の階段へと向かう。
気絶している貴族の太ったの腹を、恨みを込めてわざと思いっきり踏みつけてから出たものだから、階段を上っている最中ティルは苦笑気味だった。
さっきハーピーにもらった地図を片手に、教会からの出口を探す。
最初に地下へ下りてきた階段は途中にいた見張りは気絶させてきてはいるものの、気がついているともう使えないだろうので、急いで次に近い階段へと向かう。
その階段の先の近くに、裏口があるはずだ。全く、どこかの城かと思うほどに無駄に広い教会だ。
その時、突如背後から
「いたぞ!捕まえろ!!」
「!?チッ、見つかったか・・・」
兵士が後ろから叫ぶ声、それとその後に続いて何人分かの足音が聞こえてきた。
走るスピードを上げようとするが、手をつないだティルは、ヒトの足で走るなんてことは慣れていないらしく、少し遅れてしまう。
このままでは追いつかれてしまう、かと言ってティルを抱きかかえて走るなんてことも出来ない。
仕方なく足を止め、ティルを下がらせると、後ろから追いかけてくる兵士と向かい合う。
「少し離れてろ!」
両手を前に突き出し、力を集中させる。
ハーピーに教えてもらった通り、炎の玉のイメージをしっかりと脳に焼きつける。
すると手のひらに小さいながらも火球が現れた。それを追ってくる兵士の頭上目がけて、
「どぉりゃぁっ!!」
投げつける。ドゴッ、と音を立てて石造りの天上が砕け、瓦礫が兵士たちの目の前に降り注いだ。
兵士たちの驚き足を止めたが、瓦礫の向うから別の通路を使え、などと言う指示の声が聞こえる。
これで少しは時間稼ぎにはなるだろう。ティルの手を取りなおすと、再び階段へと向かって走り出した。
「あ、アキト様、今のって・・・魔法、ですよね?」
「ああ!まだ今日覚えたばっかだが、それがどうかしたか!?」
「・・・あんな強い魔法、魔法を覚えて初めての人なんかじゃ使えませんよ!もしかして・・・アキト様、魔法を使うために!」
「・・・そうだ!ヒトの力じゃあお前を助けられないかも知れない!だから・・・!」
「【サキュバスの秘薬】・・・飲んじゃったんですか!!」
【サキュバスの秘薬】、飲めばヒトの男性は魔物であるインキュバス化し、高い魔力と長い寿命を得ることが出来る。
正直、迷いはあった。ヒトでなくなってしまう、という未知の恐怖は大きい。
だがしかし、そんなことに構っていられない、ティルを助ける、そのためなら自分なんてどうなってもいい。
「飲んだら悪いのか!元は俺の金で買わされたんだぞ!!」
「いやそういう問題じゃなくってぇ!!!あれ飲んだら、もうヒトじゃ無くなっ」
言いかけたティルの言葉をさえぎるように、突然通路から剣を持った兵士が飛びだす。
咄嗟に急ブレーキをかけ、ティルを後ろに下がらせると右手に意識を集中させる。
「邪魔だっ!どけっ!」
さっきと同じように火球を作りだし、相手の剣目がけて投げつけて爆発させた。
剣を吹き飛ばされ戸惑う兵士の脇をすり抜けて、目の前まで来ていた階段を駆け上がった。
「・・・そんなこと、承知の上だ!お前を助けることが第一だったんだよ!」
「は・・・はぁ・・・よくそんなくさいセリフが言えますねアキトさmって痛ぁっ!!!」
階段
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