ヒトと魔物が入り混じる街(上)

「くそっ!!!」
力まかせに壁を殴りつける。
壁を殴った手に鈍い痛みが走るだけで、これで状況が良くなるわけがない。
分かってはいるものの、自分への怒りと無力感の感情を、何かにぶつけてしまいたかった。
悪い夢でも見ているようだ―――



―――港に船を停めると、教会の人間がこちらへ歩いてくるのが見えた。
また海の危険性でも説きに来たか、教会の人間は本当によく飽きないものだ。
海が危険だ?まぁ確かに魔物によって海に連れ去られるという可能性は否定できないのだが・・・
決してヒトを見たら喰うような話の通じないバケモノが海に住み着いているわけではない。

もし教会の人間が徹底した反魔物教育を受けてきたとするならば、ある意味可哀想な人間だ。

勝手なことを考えながら、同時に頭の中で適当にあしらう話の流れを作る。
生物は鮮度が一番大切なんだ。貴重な時間を取られるわけにもいかない。

「・・・アキト=リアシス様ですね?私は、カルロ=ノーヴ、教会の騎士団長であります」
「なんだ?俺に用事か?悪いがこっちも急いでるんで、急用じゃないんだったら、また後にしてくれないだろうか?魔物がどうこうの話なら聞き飽きたんだよ・・・」
「申し訳ありませんが、急用です。まぁ確かに、魔物の用事ですけれどね」
「・・・だから俺は漁師を辞めるつもりはないし、たとえ海で何かあってもそれは」

人が話してる最中に咳払いを入れられ、無理やり話を中断される。
そういえばいつもは神父のような奴らばかりだが、今日は騎士の格好をしている。
何かいつもと違う。直感で、嫌な予感がした。

「アキト=リアシス。あなたの家で魔物が見つかりました。少し、お話を聞かせてもらってもよろしいでしょうか」―――



―――自宅の扉を開けると、室内は静まりかえっていた。
つい部屋の隅に置いてある樽に目が行ってしまう。自分がこの街に来た時は無かった樽だ。
何日か前から置いてあり、そして樽の中にうるさい馬鹿が一人入っていたはず。
だが、今は空っぽだった。
樽の周りには、いくつか水たまりが出来ている。中には、少し赤色に滲むものもあった。

「まったく、急に走りださないで下さいよ。・・・魔物なら、もうとっくに収容済みですよ。それぐらい分かるでしょうに・・・」
「っ!てめぇ!アイツをどこにやった!」
「どこって、決まってるじゃないですか、教会ですよ、教会」
「ちっ!」

外へ走りだそうとするが、カルロが行く手を塞ぐように玄関に立ちはだかる。

「どちらへ向かいますか?まぁまぁ落ち着いて、正午には魔物の処刑が始まりますが、あなたは少しだけここでお待ちしていただいたら、その後、あの魔物の処刑には立ち会えますので。ご安心を」
「ふざけんな!!てめぇ・・・!」

部屋の中を見渡して武器になりそうな物を探す。だがもとより一般の民家であり、武器なんて置いてあるはずがない。
仮に置いてあったとしても、後ろには鎧をまとった兵士が控えている。武器なんてロクに握ったことが無い自分では恐らく太刀打ちも出来ないだろう。
踏み込もうとした足を一歩引っ込め、相手の様子をうかがう。

「・・・おや、思ったより冷静な判断をしたようですね。私も手荒な事は好きではないんですよ・・・助かります。あ、そうそう、この家の周りにはすでに兵を待機させてあるので、窓とかから逃げ出す、とか言うのもダメですよ」

完全に思考を一歩先まで読まれ、さらに一歩退く。嫌味なこの兵士はその様子を見て明らかに気を良くした。

「大人しくしていてくださいね?大丈夫です、あなたには危害を加えるつもりはありませんよ。魔物に惑わされてただけの、被害者、ですからねぇ」
「惑わす・・・ってお前、魔物が何か知っているのか」
「おっと、おしゃべりが過ぎましたね。失礼失礼。では、正午前には教会へお連れしますので、それまでごゆっくりと」


カルロが家から出ると、丁寧にドアを閉めていった。
外で待機していた兵士に何やら命令しているのが聞こえるのを、とても遠くの出来事のように聞いていた。

ティルが教会に捕まった。だがなぜだ。なぜティルがここにいると分かったんだ。外出した時は樽の中にいたか、もしくはヒトに姿を変えていた。
確かに危なっかしい事はしていたが、人目につくような場所でネレイスの姿はさらしていないはず・・・。
もし見られていたとしたら、昨日の夕方だ。尻尾だけだが、一瞬露出していた・・・。もしあの様子を誰かに見られていたとしたら。

「くそっ!!!」

壁を殴りつけ、頭に上った血を下ろして、混乱した頭を無理やり動かす。
今は過ぎたことを考えてる場合じゃない、どうにかしてティルを助けないと!
玄関はもちろんさっきのカルロと言う男が見張っている。
窓の外をのぞき見ると、兵士数人が退屈そうに見
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