二人の距離と一つの影

「…待て、誰だそいつは?」

家に帰っての第一声。
部屋の中に人が立っている。いや、正確にはヒトではない。
パッと見、ヒトのようにも見えたが、腕から先は大きな鳥の翼、膝から下は小さな羽根の下に巨大な鉤爪のように変化している。
巨大な鷹を連想させるその体に、不釣り合いなほど可憐な少女の胴体と顔。
ハーピーだ。生まれ故郷の街で、配達などをしているのを見たことがある。
背中や腰に大量の荷物を抱えていることを見ると、どうもこのハーピーも配達業の者ようだ。

声に反応して、そのハーピーの少女、それと樽から身を乗り出し楽しそうに談笑していたネレイス、ティルが振り返る。

「ああ、噂をすれば!アキト様!おかえりなさいですよー」
「ちわっす!ヒトの旦那!おじゃましてます!」
「おや、挨拶も無しに失礼しましtって、違う!なんで俺の部屋に平気な顔で魔物がいる!そしてお前も何を楽しそうに雑談している!」

俺を見てうれしそうに手を振るティルと、深々と頭を下げたハーピー。
その二人に同時にツッコミを入れると、一瞬驚いたような表情を見せたハーピーは「ほほーう」とか言いながら口元を翼で隠す。

「まさか、女同士でのおしゃべりまで禁止しますかー。ティルさんめ…なかなかの旦那さん見つけましたなぁ」
「だ!だだだ!!旦那だなんて!そんな関係じゃないって言ったじゃないですか!!」
「おやおや、その慌てっぷり。やっぱ相当お熱のようですなぁ。にしてもー、そない束縛系な男が好みでしたかー」
「ちっ違うって!!わっ!わー!!」

ティルは手をめいっぱいに伸ばして抗議するが、ハーピーはギリギリ手が届かない位置で笑っている。
完全に俺が蚊帳の外なのだが、目の前の問題を放置するわけにもいかない。大きく咳払いを入れると、再びこちらに視線が集まる。

「…で?再度聞くが…誰だ?そのハーピーは」
「あ!えと!ちょっと話すと長くなるのですが、この人はですね。昨日の夜中、眠れなくて窓から外を見ていたら、なんと夜空をハーピーさんが飛んでいるではありませんか!他の魔物さんに会うなんて初めてだったので、思わず呼びとめて話をしていると、なんとこの方新聞屋さんだったのです!それで私も世の中知っておいた方がいいかなーと思って、新聞配達を頼んだのですよ」
「はぁ…いや待て、その…新…聞?とやらは、何だ?」
「そこはあっしが説明しましょう!新聞!と言うのはですなぁ、世の中の動きや、流行り、国の情勢やリャナンシーちゃんの4コマまで!世界全ての情報とエンターテイメントが詰まった!夢の情報誌!いや!百聞は一見にしかず!ほらコレ、どうぞ〜」

そう言ってハーピーは腰の大きなカバンに翼を突っ込むと、器用に翼を折り曲げ、何やら紙を束ねたような物をつかみ、手渡した。

「何分口伝では伝える情報量も限られてまいますし、遠くから持ってきた情報となると記憶もあやふやになってまいがちに。それで、あっしらは世界各地から集められたそれらの情報を文章にまとめ、こうしてお客様にお配りしている、ってわけや。お分かりかな、旦那?」
「なるほどな…しかしすごいな、これほど精密に大量の文字を書くのも大変だろう。その作業だけで何週間とかかりそうだが」
「え゛………、いや、そこはでんな…。ま、魔界では【印刷機】っちゅうもんがありましてやなぁ!まぁ、細かい原理は説明しても理解できへんやろうが…。とにかく!精密に大量の文字を書きだす物があると思っといてや!」

聞いたらあかんやろ…そないなこと
と言うのが聞こえた気がしたが、何やらあわただしい反応を見ると、どうも気にしてはいけない話らしい。
話題を逸らそうと新聞とやらに目を通してみると、この国と隣国との関係の話や、国王の最近の意向など、政治的な話題があり、他にも鎖国されていて全く情報の入ってこない、ジパング地方の話すらあった。
ただ、何枚か紙をめくってみると、「サキュバス直伝!確実な男の落とし方!」とか「男の理性が崩壊?アルラウネの蜜のご利用は計画的に」など、物騒な色気話などが目に留まった。さすがは魔物と言ったところだろうか…。

「そやそや、ティルさん。これ、昨日言ってたサキュバスの秘薬。なかなかに強力やから、旦那さんもこれ一発で立派なインキュバスになると思いまっせ!」
「だ、だから違うってぇ…。うん、でもありがとう」
「何やよう分からんが、上手くやれや!…ほいでは、旦那!週一の新聞代と…薬代。合わせて…ほい!こんなもんでんな。支払い頼みますわ!」

突き出されたのは「新聞、今月分」と「サキュバスの秘薬×1」と書かれた領収書。そこに書かれた金額は思わず腰を抜かすような、相当な大金だった。

「なっ!俺から金取る気か!頼んだのはコイツで、当然代金を払うのもコイツだろ!新聞は多少は読むかもしれないが
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