本当の『想い人』

春の陽気は人からやる気を奪う。
もう少し布団にくるまって寝ていたいと体は欲求する。

だがいつまでも寝ているわけにも行かないだろ、と自分の体に言い聞かせ、重たい瞼をこじ開ける。
窓の外を見てみると、見事な青空と、街の中心に位置する大きな教会が見渡すことが出来た。

だがいつもの景色と何か違う、いつもはもう少し目を細めてこの景色を眺めていたような…。
ふと窓から身を乗り出し、空を見上げる。
太陽が青空のてっぺんで輝いていた。

「っ!?やべぇっ!もう昼じゃねぇか!」

まだ寝ぼけていた脳が急速に回転を始め、第一に仕事の事をが頭をよぎる。
漁に出るのはいつも日の出より早い。こんな時間から海へ向かったら、街に戻る頃には日が落ちているだろう。
街を夜中に歩き回って魚を売るわけにもいかない、それに昼間になれば完全に目を覚ました魔物も海を徘徊しだすだろう。もし活発化した魔物に出くわせば面倒なことになる。

魔物…と、そこまで考えて昨日の事を思い出す。
家の前に倒れていた魔物、彼女の救出劇と、その後してしまった行為の一部始終を…。
体にのしかかる倦怠感の理由はこれなのだろうか?

昨日はあの後、彼女を樽の中に戻してすぐ俺は二階の寝室に上がった。
寝る前に今後の予定を組み立て、明日に備えようと寝たはずだ。

しかしあまりにも非現実的なことが起こりすぎて、いまいち記憶がハッキリしない。
まるで夢のような話だと思い、つい不安になる。
もしかして昨日の事は全て夢で、今下の階に下りても彼女は樽の中にいないのではないか。
そんな考えが頭をよぎる。全て夢だとすれば、納得もいく。
海の魔物が想い人を探し陸に上がり、俺の家の前で倒れていて、成り行きで交わる。そしてその探しに来た想い人は『俺』であると伝えられる。
ただでさえこの街で漁師の少なさを利用して荒稼ぎをしているのだ。ここまで出来た話などあるはずがない。

少し諦観気味に布団から降りる。さて今日の仕事はどうするか、などと考えながら着替えを済ませ、下の階へ降りることにした―――



―――「………ぁ………ん……む…ぅ………ふぁっ…」

階段を下りて部屋を見渡せば思わぬ光景が目に飛び込んだ。

「…お前…、なぁ。昼間っから何してやがる」
「ふぇ……?あ…、おはようございます、ってもう昼ですよ〜案外寝ぼすけさんなのですね〜。何してるって…、見ての通り自慰ですよ?昨日のあれだけじゃ足りなくって…」

その行為に驚愕するが、同時に安堵してしまう俺がいた。
間違いない。昨日の事は夢ではなかったのだ。昨日と同じく樽の中にすっぽり収まる彼女…ティルはそこに存在していた。
自慰によってか、潤んだ瞳に見つめられ思わず近寄って抱きしめたくなるが、そんなことをしては昼間から襲われかねない。ぐっと堪えて彼女を見るが、その瞳に思わず頬を赤らめてしまう。

「…魔力は戻ったんだろ?どうしてこの家を出て行かなかった…?」

照れ隠しのつもりで言葉を発したが、これでは出て行って欲しいと言わんばかりだ。
だがティルは気にも留めないでキョトンとした表情をしている。しばらく不思議そうにこちらを見つめ、そして少し怒ったように口を開いた。

「どうして…って、たったあれだけの精液じゃまともに変身の魔法も使えませんよ。あと5、6発出してもらわないと、街を歩き回れるほどの魔力は戻りません!」
「はぁ…そんなもんなのか?」
「そんなもんなのです。あ〜あぁ、サキュバスさんとかなら体の一部を消すだけで済むのに…。ネレイスなんて足はヒレになってるから骨格も変えなきゃいけないし、肌の色まで変えなきゃいけないんですよ!何より体の構造が陸上に適してないので、そこらへんも魔法でやりくりして…」

魔法については詳しくないが、話す勢いから大変なことだけはよく分かった。となると彼女と交わらなければ家の中に軟禁状態に出来るのか、と汚い考えが頭をよぎってしまう。
だが彼女が本気で誘惑の魔法を使えば自身を抑えていられるはずがない。昨日の出来事を思い出せば、その効果は一目瞭然だ。そうなれば、魔力の回復など、やろうと思えばいつでも可能なのだ。

「って聞いてます!?さっきからぼーっとして、しかも顔がいやらしい表情をしてますよ!」
「っつ!うるせぇ!それに昼間っから目の前でそんなことしてるのを見て何とも思わねぇ男がいるか!」
「えっ、ああ、だったらその欲求を私にぶつけてくださいな!さぁ、私の胸に飛び込んでおいでっ!」
「ひっ、昼間からんな事するわけねぇだろ!この淫乱女!人様の社会ではもう少しおとなしくしてやがれ!」
「昼間っからってことは夜はそんなことしてやろう、ってことなんですね!このロリコン変態男!第一アキト様が昨日出す量が少なかったからこんな…」

ぐうぅぅぅ……

「…っ
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