―――事実、人魚の血の効果はさすがの一言だった。
ほんとに少量だったが飲ませた日の内に顔を持ち上げる程度に回復し、次の日の朝には目の前に皿を差し出せば自力で飲めるほどにまで回復した。
さらに次の日には立ち上がり歩き回れるほどになり、その次の日には家の中を走り回るようになった。
エサももう流動食みたいなものじゃなくても平気で食べるようになり、干物の魚は一日で食べきるわ保存してあった干し肉はどうやって見つけ出したのか食い荒らされた。
隙あれば家から脱走を試みるので何度も街中を走りまわっては捕えをくり返し、逃げ出さないように普段から窓を閉め切る習慣がついてしまった。
たった一週間の間に迷惑なまでに回復した。本当に不思議なものだ。
「だああぁぁ!!!うぜぇ!!!家の中を走り回るな!!壁によじ登ろうとするな!!落ち着いて飯すら食えねぇ!!」
今日も昼飯である安物のパンと干し肉の取り合いを始めると、閑静な居住区に男の叫び声が響き渡る。
最初こそ大人しかったもののこの猫はかなりのやんちゃ具合なようで、人の飯は隙あらば奪い取ろうとするわ、突如飛びついてきて服に穴を開けるわ、本人はじゃれついてるつもりだろうが腕や足を引っ掻かれて全身切り傷だらけにされるわ。
かと思ったら座ってくつろいでいる自分の膝の上に乗ってきて昼寝を始めたり、すり寄ってゴロゴロと喉を鳴らしたりして甘えてくることもある。本当に猫と言う生き物はきまぐれだ。
「うぜぇ!!!まじでうぜぇ!!!・・・けどすっげー可愛い!!」
猫から逃げ回りながらパンにかぶり付き、動物好きな一面を猫にさらけ出している男の光景は非常にシュールだろう。
しばらく追いかけっこを続けた末に結局自分が疲れてしまい、床に倒れ込んでパンと肉の欠片を猫に放り投げる。
投げられた物を器用に両方口でとらえると、勝ち誇った様子で自分の横に座り食べ始めた。
何だかんだで付かず離れずなこの猫はやはり可愛らしく、つい甘やかしてしまう。ついにやけてしまう口元を隠そうと机の上のジョッキに手を伸ばしたが、肝心の中身が入っていなかった。
「あー、ビール切らしてたか。最近コイツで遊んでばっかだったしなぁ・・・買い出し忘れてたか」
よっこらせ、と年寄りのように声に出して立ち上がると、髪の毛をボリボリと掻きながら外出用の上着を手にとる。
猫が目を丸くしてこちらを見上げていたので、「お前は留守番だ」とだけ言い残して玄関へと向かう。
てっきり付いてきたいのかとも思ったが、猫用のベッドの上に移動すると「いってらっしゃい」のつもりなのか元気な声で、にゃあ、と鳴いた。
その様子に手を上げて返事をして、家の外へと出る。酒屋に向かって歩きだそうとしたが、何かを忘れているような感じがした。
「ええっと、酒屋に行って・・・樽買いしてくっかなぁ・・・、っと、なんか忘れてると思ったら金持ってねーや金」
歩き始めてすぐにサイフを持たなかったことに気が付き、家へと逆戻りする。
家の玄関に手をかけようとしたところで中から物が落ちるような大きな音が聞こえ、そこで一瞬動きを止める。
「・・・あの猫、また暴れてやがるな。人がいなくなった途端にアイツはよう・・・!」
少しやんちゃが過ぎる。そろそろ一回ヒトと言う生き物を怒らせると怖いことを思い知らせてやらないと。
玄関先で首と腕を鳴らして気合を入れると、一気に扉を開けた。
「おいテメェ!人がいなくなった途端に何してやが・・・はぁ?」
「!?」
勢いよく扉を開けて怒鳴ろうとしたが、途中で言葉を止める。
猫しかいないはずだった家の中には、今まさに食器棚に手を伸ばして何かないかと漁る一人の小柄な少女が立っていた。
否、ヒトではなかった。両手両足は毛深いこげ茶色の毛に覆われ、頭のてっぺんには紙と同じ色した二つの突起。
見たこともない生地の袖の広い衣服を身にまとい、下は何も着ていないのかと思わんばかりで、ふとももの大半が露出していた。
極めつけにはそのお尻の位置から伸びた二本の尻尾。この街で何度か実物も見たことがある、キャット種の魔物、ワーキャットだ。
魔物は全身の毛を逆立てて驚愕の表情で止まり、しばらくしてあたふたと辺りを見渡して逃げ道を探す。
逃がしはするものかと玄関に置いてあった教団騎士だったころの剣を手にとると、鞘を投げ飛ばすようにして剣を引き抜き、隙を与えず間合いを詰め喉元に剣を突きつける。
「魔物がコソ泥働いてんのかぁ・・・?テメェどっから入りこんだ!!どこのどいつだ!!」
剣を突きつけられ動けない魔物は視線だけを動かし何かを訴える。
意識は剣の先に向けながらも視線を追うと、そこにはさっきまで猫が寝ようと寝ころんでいたはずのベッドが目についた。
「っ!?猫!おいテメェあの猫どこにやった!!いい加
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