第二話 共生 ホルスタウロス 二章

 牢屋を改修し、割と住み心地の良い部屋にした精神病棟の一室に、その青年、レナードは立っていた。赤い髪を短く切りそろえ、精悍な体つきで、部屋に入ってきた国王とグランツに敬礼を返す様子は、特に異常があるようには見受けられなかった。ただ一点、目隠しをするように薄い布を顔に巻きつけているのが気になった。前は問題なく見えているようだが…。
 任務を了承した彼と、エルンストは今、ターナのいる高原…今回の件で正式に名前がつけられ、リンドロン高原という名前になるらしい…に向かう道中の、森の中を歩いている。周囲に魔物の気配は無いが、一応警戒は解かないまま、エルンストはレナードに話しかけた。
「そうですね…まぁ、なにはともあれ行ってみましょう。実際に会ってみないと始まらないでしょう、何事も。」
「はっ、了解いたしました!」
「一週間ほどは、お互いにお試し期間となるでしょうかね。…あまり長く居ついてから離れるのも、何かと悲しいでしょうから期間は区切りましょう。」
「はっ、了解いたしました!」
 鋭く、礼儀正しく、返事をするレナード。さっきからずっとこの調子で、文句は一つも言ってこず、質問も一切返さない。真面目、忠実という点では確かに問題無いが、どうも話していて面白くない。
「…ところで、レナード君。」エルは一つ咳払いをして言った。「…魔物と一緒に暮らす。こう聞いて、抵抗はありませんか?」
「は…その、自分は…。」
 こういうタイプと会話するときは、できるだけこちらから質問するようにしたほうが話が進みやすい。レナードはこれまでの律儀な態度を少し崩し、やや考え込んで、答えた。
「…正直に申し上げて、わかりません。…自分は、旧魔族と…あとは人間との戦争しかしたことがありませんので。…新魔族は、危険ではないのですよね。」
「それは保証します。人を傷つけることはまず無いでしょうね。…特に、あのターナは。…新魔族と戦争をしたことがないのは、それまでにその目を患ったからですか?」
「眼…ですか?」レナードは少しキョトンとしたような表情を見せ、すぐに合点がいったように頷いた。「いえ、自分の病気は…眼ではないのです。…昔、隣国との戦争で…お話したほうが宜しいですか?」
「…そこは君の意志に任せましょう、と言いたいところですが、長い話になるなら今はよしましょう。どこから魔物がくるかわからない。」
 レナードが目に巻いている布から目の病気を連想したが、本人曰くそうではないらしい。
「はっ、了解いたしました。」
 そこで話をとぎり、しばらく歩く。と、少し開けた、安全そうな場所に出た。ここならば魔物は出ないだろう。
「…そういえば、少しお腹がすきましたね。…レナード君、どうです?街で買ってきたホットドッグがありますよ。」
「はっ、ありがとうございます。」
 少し打ち解けた様子でレナードが答え、エルは手持ちの袋から、明らかにその容積に収まりきらないバスケットを取り出した。内部の空間を魔術でいじって要領を増やした袋は、今や一般にも広まっている。魔術による妨害で異常をきたしやすいため、戦争等では敬遠されるが。広場の中央辺りに腰を降ろす。バスケットにはホットドッグが二つ、さらに何種類かの飲み物が入った紙コップがあった。
「…では、ホットドッグを一つと、ストレートティーを一杯。…レナード君はどうしますか?」
「自分は…では、オレンジジュースを一杯お願いします。」
 そこで口をつぐんだレナードを、エルが怪訝な眼で見ているのに気づいたのだろう、彼はすぐに、
「いえ、お腹は空いていませんので。」と付け加えた。
 それで会話は終わり、エルはホットドッグを二口かじり、ふと隣を見るともうレナードは頼んだ飲み物を飲み終え、紙製のコップを持て余していた。
「…お腹は空いていなくても、喉はかわいていたのですか?」
 問いかけると、レナードは少し恥ずかしそうに、頷いた。
「水で良ければいつでも用意出来ます、良かったら言ってください。」
 レナードは、目に巻いた布がずり落ちないようにこめかみを抑えながらお辞儀を一つした。それを見たエルンストが、口を開く。
「…ふぅむ…レナード君、どうも…君の病状、想像が付いてきましたよ。」
 レナードは何も言わず、こちらに顔を向けた。布のせいでこちらからは目が見えず、表情が分かりにくいが、エルは構わず続ける。
「…恐らく…」
 そこで言葉を切る。レナードも敏感に反応していた。木々が、嘆くようにざわめく。風すらどこか不吉なものを孕んでいる。明らかに、雑魚とは違う、嫌な気配がする。
「…やれやれ。この広場が何故出来たのか、そこを考えておけば良かった、という話ですね。」
 杖を地面に突き立てて立ち上がる。レナードは、音源とエルンストの間に立ち、自分の武器を構えた。トンファ、と言
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