「・・・何、これ」
「・・・わぅぅ・・・」ビクビク
ご飯を食べ終わったあと、言われたとおりに広場に行くと・・・。
「やっと来たね。ほら、こっちにおいで」
「う、うん・・・」
村中の人が集まってました。
一応念のために耳尻尾隠し用の麦藁帽と腰巻をしてきて、正解だったかもしれない。
・・・でもあのチビの姿が見えない。どこ行きやがったあいつ。
「ヴェルクルス・セイラル・フォーケイン!」
「は、はいっ!?」
えっ、何?
いつも長くてめんどくさいと言う理由で、滅多に呼ばれないフルネームで呼ばれるなんて・・・。
「・・・早くこっちにきなさい!」
びっくりしすぎて固まってたら怒られてしまった。
「ご、ごめんなさい!」
呼ばれた先は・・・儀式台・・・?
「えっ・・・?」
台の上には一振りの剣。
頭がおかしいんじゃないかって言うくらい、金ぴかで宝石がちりばめられて、きらきらしている。すごく目に悪い。
何このどう考えても金の無駄遣いとしか思えない剣・・・。
って、俺呼んだ相手、神父さんじゃないか。
・・・まさか。
「敬虔なる神の僕、ヴェルよ」
「はい」
「この神の剣を持って、邪なるものへと引導を渡しなさい」
やっぱり・・・ワルフのことはばれてたか・・・。
「・・・はい」
厳粛に、神の剣とやらを受け取った。
受け取った時に、ワルフが息を飲む気配がした。
「ヴェ、ヴェルさん・・・?」
「ごめんね、ワルフ」
「・・・いえ・・・」
剣を持って近づいていくと、ワルフは諦めたようにうつむいた。
「一緒に、この村を出よう」
「・・・えっ?」
その言葉に、弾かれたように顔を上げた。
「ただ人と違うからって・・・悪いこともしてないのに、女の子を殺さなきゃいけないなんて、間違ってる!どうしても殺せって言うんなら・・・お前らみんな、修正してやる!!」
「よく言ったよ、ヴェル」
「え、母さん?」
いつの間にか、隣に家の中では見たことのない服を着た母さんが立っていた。
この服・・・武道着・・・?
「みんな!よく聞きな!!」
その言葉に、広場がしんとなる。
「ヴェル、それ貸して」
「あ、うん」
「この神の剣(笑)は、私らの税金を使って作られたものだ!教会の連中は、私らに重税を課しておきながら、こんなくだらないものを作っていたんだよ!」
あ、最近税が重くなってきたと思ったら、こんなもののために・・・。
「えーと・・・ダイヤにルビー、サファイヤにエメラルド・・・水晶とアメジストその他いっぱい・・・で、鞘と柄は純金と・・・馬鹿みたいな値段がつくぞ、これは・・・」
宝石商のおじさんが、じっくりと鑑定していた。
「・・・うわ、刃の部分は銀じゃないか!」
その言葉で、広場にいたみんなの目が、神父さんのほうに向いた。
「・・・」
『・・・』
「・・・・・・・」
『・・・・・・・』
沈黙。
「悪魔は出て行けー!」
ごつっ!
「ごはっ!?」
あのチビが、神父に向かって石を投げた。脳天にクリティカルヒット!
「出て行けー!!」
『出て行け!税金返せ!!』
「あっ、ちょっ、神の僕たる私に、無礼な!!あっ、ごめんなさい許して!!」
みんなで取り囲んで、神父をフルボッコにしていた。
「・・・おにーちゃん、おねーちゃん」
「ん?」
チビが近くに寄ってきた。すごくびくびくしている。
「前は、石投げてごめんなさい・・・」
「いいよ。でも、次からは誰に対しても投げたらダメだからね?」
「うん!わかった!」
「ワルフも、それでいいよね?」
「はい。私は気にしてませんから」
「ありがと!!じゃあね!」
「ちゃんと前見ろよー」
手を振りながら、家のほうに走っていった。
ちゃんと謝ってきたし、神父に石投げたから許してあげるか。
「ヴェル」
「何、母さん?」
「村、出てくのかい?」
「うーん・・・ワルフが無事に暮らせるなら、俺はここを出て行く必要は・・・あった」
「え?」
大切なことを忘れていた。
「ワルフの群れ、探さないと」
「「・・・あ」」
・・・やっぱり、忘れてたんですね・・・。
続く
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