「それじゃ、行ってきます、母さん」
「いってきますね、お母様」
「ああ、気をつけていくんだよ」
ワルフと結婚してから(といっても式は挙げていないが)一ヶ月、とりあえず農作業もひと段落着いたので、少し遅めの新婚旅行に出かけるところだ。・・・まぁ旅行といってもほとんど旅だ。
二人で世界一周、とまではいかなくても、色々なところを見て回ろうと考えている。
流石に反魔物領に近づくつもりはないが。
「えーっと・・・こっちか」
村からずっと一本だった道の分かれ目。
はじめの目的地である隣の村へと進路を取った。
何故隣の村かというと・・・。
俺の親戚が住んでいるからである。
それも俺と違って自分から魔物に近づいていった変な子。そのせいで勘当されていた。
小さい頃はよく一緒に遊んでいたし、勘当されてはいるが、親子は同じ町に住んでるからとりあえず挨拶に行こうと思ったのだ。魔物相手とはいえ、一応結婚したわけだし。
隣の村までは徒歩で二日。少し遠いがワルフと一緒だから苦にはならない。
ワルフも楽しそうに尻尾を振っているし。
「・・・?どうかしましたか、ヴェルさん?」
「いや、なんでもないよ」
そんなことを考えながらワルフの顔を眺めていたら、不思議そうな顔をされた。
きょとんとした顔も可愛い。
「お隣の村って、どんな村なんですか?」
「んー、そうだな。うちよりもうちょっと都会・・・って感じかな?」
「都会・・・?」
あ、都会って言葉知らないのね。しかたないか。
「あー、うん。えっとね・・・うちのところより大きいって事」
ってことでいいんだよね。
「あ、なるほど・・・」
「あと、サバトがあるよ」
「サバト・・・ですか・・・」
「えっと・・・サバトはわかるよね?」
「はい、わかります。バフォメット様が長の群れですよね?」
「うん、まぁそうだね」
大体あってる。
魔物好きのいとこはそこのバフォ様に惚れたのだ。
俺はそのバフォ様とやらを見たことないが。
「ああ、あと教会はないよ」
「ほんとですか!?」
昔はあったらしいが、魔女とその使い魔が殺された報復にバフォ様が本気を出したら一瞬で消え去ったそうな。雑草すら生えない空き地があるので多分そこが教会跡だろう。
「うん、ほんと。だから安心してね」なでなで
「うれしいです・・・♪」
やっぱり教会に対していい印象はないか。
まぁ殺されかけたのだから当たり前である。ついでに俺も教会は嫌いだ。嫌なやつ多いし。
祈りの時間?いつも寝てたよ。
「・・・ここら辺でテント張ろうか」
「はい、そうですね」
空が赤みを帯びてきた。そろそろテントを建てないと。
道のりは大体半分くらい。このくらいまで進んでおけば、明日の夕方には着くだろう。
「ふぅ、これでよし、と」
「お疲れ様でした♪」
「ワルフもお疲れ様。手伝ってくれてありがとね」なでなで
「くぅん・・・♪」尻尾ぱたぱた
うん、ワルフ可愛い。
「・・・あ、ヴェルさん、久々にあれやりましょうよ!」
「ん?・・・ああ、あれか。いいよ」
あれ以来、たまにやってとせがんでくる。
あれとは・・・
「とってこーい!」
ぽーい
「わんっ♪」
ダッ
とってこい、である。
四本足で走るので手が使えない。かといって咥えるのも汚いので、首輪に籠をつけたものに投げたものを入れて来る、という風にした。頑張って首輪から作った。
「わふっ♪」
「よしよし」なでなで
「わふん・・・♪」ぱたぱた
「よし、もう一回・・・とってこい!」
「わぉんっ♪」
「はい、おしまい」
「ありがとうございました♪」
昼もかなり歩いてるのに、よく疲れないなぁ。
「それじゃ、寝ようか」
「そうですね」
「おやすみなさい、ヴェルさん」
「おやすみ、ワルフ」
ワルフの群れを探しに行って以来、ずっと一緒の布団で寝ている。
今日も同じ寝袋だ。
ワルフの寝顔を見ながら寝るのが日常になった。
今日もまた、いつものようにワルフを抱きしめて眠りについた。
続く...
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