旅51 少年の過去と少女の想い

『だ、だれ?アメリに何の用なの?』
『悪いな……お前には死んでもらうぜ……』
『えっ……なんで?アメリ何もしてないんだよ?』

現在11時。
ムイリさんの発明品のテストの一環で、私はユウロの記憶を見ていた。
先程までは旅の中で私も一緒に見ていた光景が映し出されていたわけだが……ここからは私の知らないユウロの過去となる。

『わかってる。俺もあまり乗り気じゃないけど、お前を殺して来いとおえらいさんが言うものでさ……』
『いやだ!アメリ死にたくない!』
『だったら俺から全力で逃げるんだな!!』

どうやらアメリちゃんが私と出会う前、当時きちんと勇者をしていたユウロに襲われた時のものらしい。
寝起きで『テント』をしまったところだったのだろう……眠そうにしながらも怯えているアメリちゃんが大きく映し出されていた。

『おらあっ!!』
『わわっ!!』
『そらよっ!』
『わっとと!』

当てる気は無いのか、大振りでアメリちゃんに攻撃するユウロ。

『うわあああぁぁぁ……』
『はぁ……行ったか……追わないとな……』

そのうちアメリちゃんは森の方に走り去っていった。おそらくこの後地図を落とし、迷子になって……私と出会ったのだろう。
そして、どこか安堵したような独り言を言うユウロ……やはり本当は殺したくなんかなかったのだろう。

『ここで見逃しましただなんて言ったら絶対お偉いさんが怒るもんなぁ……さて、どうしようか……』

悩んでいる様子を見せながらも、アメリちゃんが走り去っていった方向に向かい始めたユウロ。
この後私達は出会う……そう考えると、このときのユウロの判断は正しかったと言えるだろうな……



……………………



『ユウロ、任務だ。この国の外れに魔物の目撃証言があった。特徴からしておそらくリリムだ』
『リリム……ってちょっと待って下さい。これ子供って書いてあるんですが……』
『その通り。これはまたとないチャンスだ……お前ほどの腕なら倒す事は容易ではないだろうが出来るだろう』

場面が遡ったのか、どこか厳格な神父さんが映し出された。
話の内容から、アメリちゃんを討伐するよう言い渡された時だろう。

『子供に手を掛けるのは気が引けるのですが……』
『何を言うか!子供とはいえ魔物、しかも憎き魔王の娘だぞ!!大人のリリム相手では歴戦の勇者ですら敵わない程だ。今倒さずにいつやるんだ!』
『……はい……』
『お前の気持ちはわからんでもない。魔物であれ子供、心苦しいのは十分にわかる。逆の立場ならば、私だって疑問に思い戸惑うだろう』
『では……』
『だが、今ここで倒さなければ後に大きな障害となるのは確実なのだ!リリムは魔王の力の象徴ともいえる……それを削らなければ我々人間の勝利は遠ざかってしまうのだ!わかったら準備を済ませて行ってこい!愚痴や不満なら討伐した後にいくらでも聞いてやる!!』
『わかりました……』

聞いているだけで腹の立つ言い分ではあるが……元々魔物は恐ろしい生き物だと思っていた私は、この神父の言う事もわからなくは無かった。
人類最大の敵である魔王は相当恐ろしい……その娘も恐ろしく強く、強い勇者ですら倒すのは困難……そんな相手をまだ強くないであろう子供のうちから倒せるのであれば子供であろうが討伐しに掛かるだろう。
この神父もそう判断し、厳格な表情でユウロに命令している……ユウロの話を聞く限りだとお偉いさんとやらは酷い性格をしているかと思ったが……『魔物という危険な存在から人々を護る』神父としては心優しい人なのだろう。

『はぁ……また魔物退治か……』
『なんだ?そんなに魔物を殺すのが嫌なのか?』
『そりゃあな……ああも人に近いと嫌でも相手も同じ生き物だって認識させられるからな……』

神父がいた部屋を出たユウロ。
大きな溜め息をしていたら、見知らぬ青髪眼鏡の男がユウロに話しかけていた。

『しっかりしろって。魔物はそうやって俺達を惑わしてるんだからな。そんなんじゃお前あっという間に殺されちまうぞ?』
『わかってるけどさ……もっと化け物みたいな姿をしてたらいいけど、流石にな……しかも今回は子供だし……』
『お前は魔物に甘いなぁ……盗賊相手には敵なしだってのに、魔物相手だと逃げられてばかりじゃないか』
『仕方ねえだろ?実際に悪い事してるの見た事ねえ相手を殺せって言われたって出来るかっての。盗賊は悪い事してても殺さず捕まえるのに、目の前で怯えてるだけの奴を殺すのは気が引けるんだよ……』
『まあお前の言ってる事は俺もわかるさ。だが、それはここじゃ禁句だぜ?言葉には気をつけるんだな』
『ああ……忠告ありがとさん』
『ここの神父さんは寛大な心をお持ちになられてるから魔物を再起不能にこそすれど命までは奪わないお前の事もお許しなさっているんだ。他
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