旅42 少女の記憶と父と子と

「父ちゃん!ご飯出来たよー!!」
「おお、了解」

これは、あの『事故』が起こる前日の夕方の記憶だ…
アタイはいつものように夕飯の準備を終えて、家の庭先で素振りをしている父ちゃんを呼びに行った。

「刀を使いこなす父ちゃんってカッコいいな〜!やっぱ父ちゃんが刀を振るう姿は様になってる!」
「そうか。桜に褒められると父ちゃん嬉しいぞ!」
「わっ!?やめろよ父ちゃん!もう頭撫でられて喜ぶような歳じゃないってば!」
「ははっ、そう言いながらも嬉しそうにしてるじゃないか」
「こ、これは…恥ずかしいだけだよ!」

父ちゃんは武士で、下手な妖怪たちよりも強い。そんな父ちゃんの仕事は雇われ護衛みたいなものだ。
それはおえらいさんから町民まで、仕事量や相手の財産から考えて相応な報酬を貰って、賊や野生動物や妖怪から雇い主を護る仕事だ。
もちろん客は選ばないから、時にはぬれおなごや一尾の稲荷などあまり武力を持たない妖怪の護衛も引き受けていたりした。
まあ最後に妖怪が父ちゃんに色仕掛けをしようとしたら逆に父ちゃんに殺されそうになるからって話が広がってるからあまり妖怪のお客さんはいないけどね。
でもそれは父ちゃんはアタイの母ちゃんを今でも愛しているからで…というか襲ってくるほうが悪いと思うけどね。

「もう…そんな事言うなら父ちゃんの好物のきんぴらの量減らすけど?」
「おっと、それは困る。ごめんな桜!」
「まったく……ほら、ご飯にしよっ!」

次の日は父ちゃんに仕事が入っていたので、夕飯は父ちゃんの好きなごぼう・にんじん・れんこん・そして大根の皮が入ったきんぴらを作った。
それを言ったら父ちゃんは凄く嬉しそうな顔をして喜んでいた。


「ほら!父ちゃんの大好物、アタイ特製のきんぴらだよ!」
「おお、相変わらず美味そうだ」
「そりゃあ毎日父ちゃんの為に料理してるからね。特にきんぴらは父ちゃんの好物だから沢山練習したからね」
「桜は父ちゃん想いのいい娘だなぁ……」
「そんなべた褒めされても困惑するからやめてほしいんだけど…」

素振りを終えた父ちゃんとアタイは仲良く2人で夕飯を食べ始める。
ちなみに2人しか居ないのは…アタイには母ちゃんがいないからだ。
母ちゃんはアタイを産んですぐに死んでしまっていたから、アタイは顔すら知らないのだ。
だからアタイにとって家族と言えば父ちゃんだけなのだ。

「さてと、じゃあ食べるか」
「そうだね。いただきます」
「いただきます」

この日の夕飯は白米に豚汁、鮎の塩焼きに父ちゃんの大好物のきんぴらだ。
それと父ちゃんだけきゅうりと白菜の漬物もある。

「おや?桜、何故桜の分の漬物は無いんだ?」
「え、そ、それは父ちゃん用だよ!親だけの特権だよあはは……」
「……野菜嫌いをなんとかしないとなぁ……」
「うーだって野菜美味しくないもん……」

父ちゃんだけ漬物があるのは…アタイが野菜嫌いだからだ。
全く食べられないわけじゃないけど、噛んだ時の食感、そして根本的な味がなんか嫌だから出来るだけ食べたくない。

「ジパング人なら肉ばかり食べてないで野菜を食え、野菜を」
「いいじゃんかジパング人でもお肉美味しく思うんだもん!!」
「はぁ〜…野菜嫌いは桜のほぼ唯一と言える欠点だからなぁ……もう13歳なんだから好き嫌いはなくしなさい」
「うぅ…これでも結構頑張ってるほうだと思うけどなぁ…」

お肉は野菜と違って食べ応え抜群、力も付く、そして何より美味しい。
だからアタイはお肉中心の方がいいんだけど…父ちゃんの小言が飛んでくるからなかなか出来ない。

「このきんぴらは野菜でも美味しく食べられるんだけどなぁ…」
「正確には根菜ではあるが…まあそれはそれで不思議だが……」

それでも、父ちゃんの大好物であるきんぴらはアタイも大好きだった。
何故かきんぴらだとにんじんもれんこんも大根の皮も美味しく食べられる……父ちゃんの大好物は、アタイの大好物でもあったのだ。


「ねえ父ちゃん、明日はどこに行くんだい?」
「えっとな……ここから少し遠いが、まあ朝から馬を使えば夕方には辿り着くような距離にある祇臣って町だ」
「祇臣か〜…どんな町なんだろうな……」

ある程度食が進み、父ちゃんに白米のおかわりを盛り付けた後に明日向かう場所を聞いてみた。
何故アタイがそんな事を聞くのかと言うと……父ちゃんの仕事は内容次第で数日から数週間掛かる事が多いので、アタイも毎回仕事に付いて行っていたのだ。
今ならまあ留守番出来ない事も無いが、それでも何日も一人で家にいるのは寂しいし、父ちゃんと一緒にいろんな所を周るのは楽しいから出来るだけ付いて行っていた。
もちろん護衛の仕事で、相手がかなりヤバい人物だったりしたら連れて行ってもらえない事もあったけど…それでも父ちゃんは大体連
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