「あーあ…ダメだこりゃ…これは一旦ジパング本土に戻らないと…」
これは、私のご主人様がこの小屋から居なくなった日の出来事だ。
「あーくそ、やっぱ無理させちまったか…あの技師に何言われるやら…はぁ…」
ご主人様は正常に作動しなくなった分析計を見ながらブツブツと何か独り言を言っている。
何故独り言かというと、まだ私はお話どころか動く事も出来なかったし、それにご主人様以外にこの島に人間はおろか妖怪すら居ないからだ。
「まあ仕方ないか…発表日まで時間が迫っているから今すぐ行かないとな…」
ちなみにご主人様はこの無人島の自然…植物の生態や土の成分などを調べ研究する仕事をしている。いうなれば科学者だ。
それで、研究に使っている装置の…しかも重要なものが壊れてしまったのでそれを作った人に直してもらいに行く為にその壊れた装置を抱え、準備を整え始めた。
「ん〜と…おそらく今から行くと夜に海を渡る事になるから…毛布1枚ぐらい持ってったほうがいいか…そんで食べるものと…よし、出発するか…帰ってこれるのは1週間後かな…」
そして準備が終わって、なるべく早く行く為か小屋を飛び出していった。
余程慌てていたのか、島を離れる時は毎回一緒に持って行ってた私の事を置いて…
そして、1週間経っても…ご主人様は帰ってこなかった……
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「牡丹ちゃん?おーい聞いてるー?」
「……はっ!?あ、ご、ごめんなさい林檎さん!ぼーっとしてました!!」
「いやそんなに気にしなくていいけどね…ほら、陸地が見えてきたよ!!」
輝く太陽の下、どこまでも続く水平線をぼーっと見ながらご主人様が居なくなった日の事を思い出していたら、話しかけられていた事に気付かなかった。
言われたとおりに見てみると…たしかに陸地…というか山らしきものが遠くにうっすらと見えた。
「あそこにご主人様が…」
「たぶんね…もしこの町に居なくてもそう遠くには行って無い筈だから、探せばすぐに見つかると思うよ」
私は帰ってこないご主人様を探すため、たまたま知り合った妖怪『ネレイス』の林檎(りんご)さんに無人島から海に入らないよう木箱に入れられてジパングまで運ばれていた。
何故わざわざ木箱に入れられて運ばれているかというと…私、牡丹(ぼたん)は『提灯おばけ』という妖怪だからである。
たぶん大丈夫だとは思うけど…やっぱり提灯だし、海に落ちると言うか、水に浸かるのはかなり怖いのでこうして海に落ちないように林檎さんに運んでもらっているのだ。
「ああ…ご主人様…早く会いたいよ〜…」
「ま、まあそんなに気を落とさないで。わたしも一緒に探してあげるからね!!」
「うぅ…ありがとうございます…」
ご主人様が島を出てから2週間と1日が経過…私が自分で動けるようになってからは10日ほど経過した。
その間、私は一人でご主人様の帰りを待っていたのだが…ご主人様が言っていた「帰ってくるのは1週間後」を信じて待っていたのだが…ご主人様は帰ってこなかった。
ご主人様は期限を守らない事は滅多にない程真面目な人…それこそ誰も約束などしていないのにも関わらず自分が決めた時間に合わせて動く人だから…1週間を余裕で越えても帰ってこなかった時は言いようもない不安に駆られた。
ご主人様の身に何か大きな事故があって大怪我でもしたのではないか…
ジパング本土に向かう途中で海に棲む妖怪にご主人様が捕まったりしていないだろうか…
もしかしたら私を捨てたのではないだろうか…
本当にさまざまな不安が私を襲ってきて…昨日まで苦しかった。
そう、『昨日までは』だ…
なぜならば、昨日たまたまご主人様の小屋に来た人達…強盗かと思って攻撃しちゃったけど遭難者だった…が、ご主人様らしき人物をジパング本土の倭光(わみつ)という町の…名前までは覚えてないけど雑貨屋で見掛けたと言ったのだ。
しかもその遭難者達が言うには、ご主人様は船のパーツを探しているらしい。
どうやら海を渡る途中、もしくは帰ろうとした時に船に何かが起こって壊れてしまったのだろう。
船自体は大陸製の物なので、ジパングでパーツを探すのは困難だ…それ故に修理に時間が掛かってしまってご主人様は帰ってこれないのだろう…
なにはともあれ、ご主人様が無事だって事や私を捨てた訳じゃなくて帰れないだけだという事がわかった。
だから私はいてもたっても居られなくなり、その遭難者達の知り合いだった林檎さんに頼んでこうしてジパング本土まで運んでもらっているのだ。
しかも林檎さんはそれだけでなくご主人様を探すのを手伝ってくれると言ってくれた…旦那さんも居るって言ってたから旦那さんに早く会いたいはずなのに…それでも私を手伝ってくれ
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