「ふぁぁ……ふぅ……」
「眠そうだな」
「まあね……最近体毛を切ってないから結構伸びちゃってるしね」
現在19時半。
私達は次の目的地である港街フォルセカンを目指し、順調に旅を続けていた。ペースを落としたりしなければあと2,3日で到着する予定だ。
そして今は夜ご飯の時間なのだが……襲い来る眠気に、私は大欠伸をしてしまった。
原因はわかっている。自分の身体から生えている、眠りの魔力が宿った毛皮だ。旅の間は行動に支障が出ないようにちょっと短めに切っていたのだが、最近はサボっており結構もこもこになっているのだ。
「日中は平気そうにしてる気がするけどなぁ……」
「動いてる間は良いんだけど……ふぁ……こうやって座ってるとどうしてもね」
まだ行動に支障が出てしまう程伸びてはいないが、今みたいにご飯を食べるために座っていたりすると眠気が襲い掛かってきてしまう。ワーシープとしてはそれでも良いのかもしれないが、なるべく起きて色々と見て回りたいと考えている私にとってはちょっとした困りごとになっている。
ならば切れば良い……と言いたいところだが、鏡があっても自分でやるには背面の毛を切るのは難しく、だからと言ってユウロやアメリちゃんにやってもらおうにも二人とも毛を切る技術は無いのでそれも難しいのだ。
全部刈ってしまうのならばまだやりようがあるが、丁度良い具合を目指すとなると余計難しい。どうにかしたいが……中々良い案は思いつかない。
「サマリお姉ちゃんのもこもこ、抱き着いてると気持ち良いんだけどねー」
「まあ……寝る時は全然それでも良いんだけど、動いてる時に支障が出ちゃうとちょっとね」
寝る、という観点においてはこの毛皮は大いに役に立つ。安眠効果があるのでぐっすり眠れ、しかも目覚めもスッキリ爽快と良い事尽くめだ。
それは私だけではなく、私と一緒に寝ているアメリちゃんにも効果が及ぶ。この『テント』内にある布団はワーシープウールを使っているので同様の効果はあるのだが、生身のワーシープに抱き付いている方が温もりもあってより快眠を得られるとの事。なので寝ている間の利点は大きいのだが……動く時に困ってしまうのだ。
「まあ、次の街でカットしてくれる店があればそこで頼む事だな」
「それしかないか……」
旅をしていなければそこまで気にする事ではないが、それを言ってしまったら元も子もない。
髪の毛は兎も角、全身の体毛をカットしてくれるお店がどれだけあるのかはわからないが、ユウロの言う通りそういうお店を頼るしかないだろう。
「あーあ、カリンが居てくれたらなぁ……」
ふと口にしたのは、かつて一緒に旅をしていた仲間の刑部狸、カリンの名前だ。
彼女が一緒に居た間は、私の体毛を良い具合に切ってくれていた。切った分の毛を自分の懐に入れる為との事だが、かなり器用なもので切り跡が整っていたし、毎度頼りにしていたのだ。
大怪我を負った父親が完治したら旅を再開すると言っていたし、前に会った時にはもうちょっとで良くなるとも言っていたので、そろそろまた旅に出ていると思うのだが……だからといってどこで合流するとかの打ち合わせは一切していないし、そうすぐには会えないだろう。
ただ、合流する事だけに関していえば可能らしい。ユーリムさんのところで別れる際、何かアメリちゃんと二人でコソコソとやっており、こちらの位置が特定できるとか言っていた。良くわからないが、まあ二人がそういうのだから大丈夫だろう。
「カリンなぁ……あいつ何時どうやって合流する気なんだろな?」
「……」
「ん、どうかしたのアメリちゃん?」
「んーん、何でもないよー」
カリンの話題になった途端、急に黙ってニヤニヤとし始めたアメリちゃん。どうしたのかと聞き出そうとしたが、はぐらかされてしまった。なんだか怪しい……
「……」
「えっと……あと10秒もしたらわかるよ!」
「10秒?」
追求するようにジーっと見ていたら、慌てながらそれだけ言ってきたアメリちゃん。10秒という短い時間で何がわかるのかと思いながら、なんとなく心の中でカウントしてみるが……
「……はい、10秒経ったけ……」
「いよーっす! 皆元気しとったかー!」
「うわあっ!?」
丁度10秒経ったその瞬間に、『テント』の扉が勢いよく開かれ、同時に元気な女性の声が響いた。
「ってカリン!」
「久しぶりだな!」
「皆久しぶり! 元気しとったか?」
その女性は、先程名前を出した刑部狸のカリンその人だった。
今はいつも通り人化の魔法を使用中で、見た目は完全に人間だ。知らなければ魔物だとは思わないだろう。
「カリンがここに居るって事は……」
「せや! ウチもこれからはずっと一緒に旅ができんで!」
旅ができるようになったらまた一緒に行くという話になっていた。今
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