13話 明かされた想いと結ばれた幸せ

「そこをどけウェーラ!!」
「絶対に嫌です!」

魔王が交代し、身体が人間の若いメスと混じったような感じになってから数年が経った。
まだまだ人間の肉の味を思い出しては嘔吐するし、相変わらず今の魔王に思う所はあるが、流石に今の身体にも慣れてきたので何不自由なく生活していた。

「貴様、オレに逆らうというなら死を覚悟しているのだろうな!?」
「たとえティマ様が相手でもこれだけは絶対に譲れません!! 私の持つ全てを使ってでも止めます!」

人間への恨みは全く無くなったわけではない。ないが……昔ほどむやみやたらと全人類を恨んでいるというわけではなくなっていた。
勿論、父様を殺した人間はこの手で引き裂きぐちゃぐちゃにし挽き肉にしてやりたいと思っているが、それ以外の人間は別に殺そうだなんて思わず、むしろかつての宿敵達に感じたように興味を示し始めていたぐらいだ。
これはきっと魔王の影響だろう。だが、交代したばかりならともかく今はそう嫌な気持にはならなかった。時間が視野を広くしたのもあるだろう。

「例え主に歯向かう事になっても、この人を貴方に殺させません!」
「なんだと……! ウェーラ、そいつはなあ……!!」

そんな感じに今の身体や考えを受け入れつつのんびりと暮らしていたある日の夜の事。ウェーラが一人の人間を紹介したいと言ってオレの前に連れてきた。
昔は同じ人間でも嫌っていたウェーラが、1年程前から今の魔物らしく一人の人間に恋をしていた。最近のウェーラはそれもあってか明るくなり、見た目通り可愛くなっていた。
ここのところ聞いてもいないのに本人の口から何度か聞いていたし、きっとそいつを連れてきたのだろうと思っていた。だからその人間が誰であれ、オレは受け入れるつもりだった。
だが……

「そいつは……父様の仇なんだよ!!」

ウェーラが連れてきた男は……よりにもよって現在この世でただ一人殺してやりたいと思っている男だった。

「ウェーラ、退かないのならお前ごと殺すぞ!」
「絶対にやらせません!」

オレはこの男を見た瞬間、ほぼ無くなっていた恨みや殺意が爆発した。
勿論殺してやろうと鎌を生成し近付こうとしたら……ウェーラが両腕を広げ間に割り込み、それを阻んできた。

「何故オレに逆らってまでその男を庇う!?」
「それは……」

お前ごと殺すと言っても、実際に鎌を振り下ろして杖を折っても、尚も引かないウェーラ。
今まで従順であり、また意見を言えど脅せばすぐに引き下がっていたのに、今回に限っては何をしても引き下がらない。こんな事は初めてだったので、オレは怒り任せに怒鳴りながらも困惑しその理由を聞いてみた。

「それは……私はこの人が大好きだからです! ティマ様と並ぶぐらい、掛け替えのない人だからです!」
「なんだと?」
「この人がティマ様のお父様を殺した人間だと存じております。ですが……それでも、私はこの人をお兄様にしたいのです! この人を愛してしまったから!」
「くっ……」

それは、まさに想像通りだった。
何をふざけた事を……とは言えなかった。こんなに真剣に叫ぶウェーラを見た事が無いし、本気だと言うのがわかったから、つい気圧されてしまった。

「それに……ティマ様に、もう誰も人間を殺してほしくないのです」
「な……」
「私だってそう、かつて楽しんで人間を殺して来た事を今後悔しています。たとえ相手が憎き仇だとしても、きっと殺す事に抵抗を感じているはずです」
「そ、そんな事は……」
「もし違ったとしても……私は見たくありません。大切な人同士が、殺し殺される場面なんて……」
「……」

オレが怖いのか全身を震わせながらもそう言い放つウェーラ。瞳をウルウルさせ、目元を赤らませた顔で睨みながら、一歩もそこから動こうとはしない。それだけ引けないのだろう。

「……ちっ。勝手にしろ」
「あ……」

昔のオレなら知るかと言ってウェーラごとバッサリ行っていただろう。だが、今のオレにそんな事できなかった。なんだかんだ言っても、ウェーラの事を大切な部下だと思っているからだ。
そんな相手が決死の覚悟で止めているのだ。オレは何もできず……その場から逃げるように離れた。



……………………



「はぁ……」

やりきれない気持ちを抱えながら、オレは家の近くにある泉の近くの木陰で一人しゃがみ夜空を眺めていた。
ようやく仇と会えたというのに……よりにもよってそれが自分の右腕ともいえる部下が伴侶として選んだ相手だった。

「くそぉ……」

魔王交代前ならこんなに頭がゴチャゴチャとなる事は無かっただろう。だが、今の時代の魔物の思考に染まりつつあるオレに、あの男を殺す事はできなかった。
父様の仇を取りたい。だけど、ウェーラが選んだ伴侶を殺す事は躊躇する。自分でも気持ちの整理が
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