12話 新たな闘いと変わらぬ決着

『お待たせしました! もう間もなく始まります、500年前の激闘再び! 元魔物狩りのタイト&ホーラ兄妹対我らが村長ティマ&ウェーラの対決です! 実況は私、ウェーラの娘のレニューと!』
『レニューの父でありウェーラのお兄様である私、エインが務めさせていただきます!』

コロシアムの控室にも届く実況席の声。実況を担当しているエインとレニュー親子の言う通り、間もなく決闘の時間だ。

「いよいよだね……」
「ああ……」

1ヶ月の準備期間でやれる事は全部やってきた。
エインがみっちり修行してくれたおかげで、少なくとも500年前とは比べられない程強くなっていると実感している。剣術も肉弾戦と同じ位には作戦に組み込める程となっていた。
ホーラのほうも宣言通りヴェンからたっぷり精を吸収したようで、既に自分に掛かっている肉体強化魔術は昔のそれと比べ大幅に質が向上しているのがわかる。

「ホーラ、その本の準備も万全か?」
「勿論。これがあればウェーラにも負けない」

俺は剣を携え、ホーラの強化魔術が掛けられたグローブとブーツを履き、またいくつか細工した小道具なんかを服に仕込んである。これら小道具は全部ホーラ自家製の魔道具で、魔術の心得のない俺でも扱えるようにしてある。
そして肝心のホーラは、リッチになってからそれっぽい恰好とか言ってずっと着ているボロボロのローブ以外身に付けておらず、その手には少し分厚い本を一冊持っているだけである。まあ、ヴェンに外では恥部を隠してと言われたらしく下着は身に付けているが、本当にそれ以外は丸腰だ。
しかし、この本こそホーラの自信作であり、また彼女自身の切り札でもある魔道具であった。淡々としていながらもいつになく強く感じる口調でウェーラにも負けないと言うだけあるだろう。

『本日は大勢の方にご来場いただきました。誠にありがとうございます! 皆様の期待に応えられるような闘いになると思いますので、こちらも頑張って盛り上げていきます!』
『えー、ただ私達の立場上若干ティマ様達贔屓な実況になる事もあるかもしれませんのでそこは御了承下さい。なるべく公平に行きたいですが、母のピンチに叫んでしまうかもしれません。特に父が』
『えーと、否定はできません』
『はははは……!!』

盛り上がる会場の声も耳に殆ど入ってこない程集中している……いや、集中というよりは緊張していた。
イベントという事もあって医療班が配置されており、昔と違い命の奪い合いは起こらないようになっている。とはいえ、互いに相手を殺す気で闘うのでそれなりに怖いものがある。
そんな中でも一番怖いのは、現在のティマの実力や戦法が不明瞭な点だ。昔と違い相手を死に追いやるような呪いを扱えなくなっているが、治癒系など補助系統の魔術を扱えるようになっている……ぐらいしか情報が無い。この時代に来てからは、ヨルム相手に共闘した時しか闘っているのを見ていないからだ。
つまり、かつての戦いでのデータがどれ程使えるのかがわからないので、始める前から対策しようにも限度がある。

『さて、開始までの間、しばしご歓談くださ……コラーそこの子鬼と狸! 喧嘩をするなら商売権利剥奪しますよ!!』
『えー。そこのお二方を始め皆さん場外乱闘は控えて下さいね。最悪追い出しますよ? こちらも今後格闘大会などを開催していこうと考えているので、喧嘩したいなら是非そちらへ出場願います』
『勿論自警団の皆さんやその他ヨルムさんなど力自慢のお方も大歓迎です!』
「あらら。香恋さんとモックさんまた喧嘩してるみたいだね……ってお兄ちゃん?」
「ん? あ、ああそうだな」

俺は緊張しているのだが、どうやらホーラはそこまででもないようだ。少なくとも俺と違い実況の声を聞き楽しむ余裕があるみたいだ。

「もう、緊張し過ぎ。準備はこれでもかってくらいしてきたんだし大丈夫。絶対勝てる……なんて事は言えないけど、少なくともボロ負けする事は無い」
「いや、しかしだな……」
「ま、硬く考え過ぎても仕方ないよ。あっちと同じく魔物になったからハッキリと言えるけど、今は昔と違って淫猥なのはあっても死に直結するような魔術は絶対に飛んで来ない。だから、何されても挽回するチャンスもある」
「そうかもしれないが……」
「それに、緊張してないのは確かに良くないけど、緊張し過ぎてたって身体が思うように動かず大きなミスに繋がる。そうならないようにもう少しリラックスしないと」

緊張し過ぎと言うホーラにその理由を言おうとして、強い口調をもってそれを阻止される。
そして、緊張し過ぎは良くないと指摘されてしまった。

「……そうだな。確かに無駄に色々考えて緊張し過ぎていたようだ」
「そうだよ。今までだってずっと引き分けで終わってたんだもの。その時より相手が強くなっていると言
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