飛び交う怒号。鳴り響く金属音や爆発音に銃声。
もう何十年も続く戦争は、その国に住む人々を疲弊し続けていた。
既に戦う理由などなく、しいて言うならばただ相手に負けないためだけの争いは、多くの人達を疲れさせ、大人だけではなく子供達ですら犠牲にした。
戦争は、人々の怒りや悲しみ、苦しみの声を生み出し、この国に渦巻いていた。
この重く薄暗い空を晴らし、皆がのびのびと、生き生きと暮らす事ができる国。
子供達が犠牲になる事もなく、笑顔で元気に成長し、のびのびと暮らす事ができる国。
そんな国を夢見ながらも、身も心もボロボロで、無念を抱いたまま土に還り……
……………………
…………
……
…
「ふぅむ……」
「おや、今日はなんだか機嫌が悪いね。どうかしたの?」
「別にどうかしたってわけじゃないけど……ちょっと嫌な夢を見てね」
カラッと晴れた……とはいえここは暗黒魔界なのでそこまで明るくないが……晴れた天気とは違い、ちょっぴりどんより気分の朝。
愛する夫と共に朝食を食べていると、機嫌が悪い事を指摘されてしまった。
「まあ、アンデッドだって……それこそワイトだって悪夢ぐらい見るとは思うけど……不機嫌じゃあ子供達も心配するよ?」
「それもそうね。じゃあ、景気付けに朝から1発、いいかしら?」
「ダメって言ってもヤるつもりでしょ? 夢中になりすぎて遅刻しないようにね」
「わかってるって!」
今朝は悪夢を見たせいでちょっと不機嫌だったが……確かに夫の言う通り、機嫌が悪いままではいけない。
何故なら、私は保育士だからだ。ムッとしたまま子供達に会えば怖がってしまうかもしれない。
という事で、機嫌を直す為にも私は朝も早くから夫とベッドインして……
……………………
「で、遅刻したと」
「……はい」
気付けば家を出なければいけない時間などとうの昔に過ぎ、幼稚園に着いたのは午前の休憩時間だった。
「旦那様との時間を大切にするのはわかります。魔物として何も間違ってはいません。それが魔王であるお母様が目指している世界ですしね。特にワイトであるエーネ先生にとって精が大切なのも理解できます。で・す・が、あなたはこのまもむす幼稚園の保育士です。子供達を育てる先生です。無断遅刻は感心できませんし園児達も心配するのでその場合園に一報ぐらいくださいませんか?」
「いえその……景気付けに少しだけ性交を行っていたつもりでしたがいつの間にやら思っていた以上に時間が過ぎていましてね……」
「はぁ……同じ理由で無断遅刻してくる先生方とまっっったく同じ言い分ですね」
「う……」
ガッツリと遅刻した私は園長先生に呼び出され説教を受ける破目になってしまったのだ。
「まあ、一先ずは反省なさっているみたいですしいいでしょう。今後は気を付けてくださいね。園児達が待っていますよ」
「はい、気を付けます」
短く纏められた説教も終わり、私は自身が受け持つすみれ組へと向かった。
「はぁ……今度からは指だけにするかな……とにかく時間には気を付けよう……」
「あ、エーネ先生!」
「あうー!」
「おはようございます!」
「あら、おはようございますケミーちゃん、カリアちゃん」
その途中、お手洗いから戻ってくる途中らしいすみれ組のケミーちゃん達が私を見かけて挨拶してくれた。
「先生、今日はどうなさったのですか?」
「夫と深い愛を交わしていたら少々時間が過ぎてしまいましてね。皆には心配かけて申し訳なく思っていますわ」
「あいー!」
「まあ、それは仕方ありませんね。愛する旦那様との交わりは至福の時、そうお母様も仰っていますからね……ふああっ♪」
私が遅刻した理由を告げると、想像でもしているのかそう言いながら白い頬を薄く染め大きな魔力の鉤爪で顔を覆うケミーちゃん。
ケミーちゃんは私と同じワイトの女の子で、不死者の王としての風貌も持つお嬢様だ。私はケミーちゃんと違って力を蓄えゾンビからワイトになった所謂成り上がりなのだが、そんなのお構いなしに同じワイトとして憧れてくれているようで、私によく懐いてくれている。そしてよく私ともも組のマダル先生が開くお茶会に参加する子だ。
そんなケミーちゃんを慕いよく行動を共にしている、生気のない肌を持つカリアちゃんは、まだ成って間もないゾンビの女の子。産まれてそんなに経たないうちに死んでしまった元人間で、脳の劣化なども影響して今はまだうまく喋る事ができない。それでも身振り手振りで言いたい事はわかる。どうやら私の姿が見えなかったから心配させてしまっていたようだ。
「では今からのお勉強はエーネ先生が教えて下さるのですね」
「ええ、確か今日の午前中は魔術のお勉きょ……」
「あーエーネ先生だー!」
「あ、本当だ。どうやらただの遅刻だ
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