「んー、エル、今日はいい天気だな」
「そうですねご主人様♪」
何も特別な事はない、いつも通りののんびりとした昼下がり。
「そして絶好のお散歩日和ですね♪」
「だなー」
僕と彼女はその中で、のんびりと河川敷を散歩していた。
「見て下さいご主人様! 蝶々がいっぱい飛んでます!」
「おおっ、何十匹もいると凄いもんだな」
空を見上げると青い空に白い雲が浮かび、強すぎない日光が降り注ぐ。
川の涼しさを乗せた心地良い風が僕らの間を吹き抜ける度、彼女の体毛がふわふわと靡く。
僕をご主人様と慕う彼女――エルは目を輝かせながら散歩を楽しんでいる。
「綺麗ですねご主人様!」
「まあな。と言っても、エルには敵わないけどな」
「わふっ!? そ、そんな事急に言われても恥ずかしいですよ……えへへ……」
そんな彼女に綺麗だと言うと、顔を真っ赤にしながら手で覆い隠して首をぶんぶんと振る。
同時に腰から生えた尻尾も激しく揺れているから、恥ずかしいと言ってはいるがそれ以上に嬉しいがってくれているのだろう。
このように僕が褒めるととても嬉しそうにしたり、逆にしかると弱弱しく尻尾や耳を垂れるなど、全身を使って感情を表現する姿は非常に愛くるしいものだ。
「ほら、行くよエル」
「あっ待って下さいご主人様ー!」
そんなエルは、尻尾や体毛が生えている事からわかるように人間ではない。
腕や身体、足はふわふわな茶色の体毛に覆われ、同じ色の尻尾が腰から生えている。満面の笑みを浮かべるとちょっと人より鋭い犬歯がちらりと覗き、耳も顔の横ではなく頭の天辺付近から垂れるように付いており、また手足には肉球と、害はないがちょっと鋭い爪が伸びている。
そんな犬のような特徴を持つ彼女は、コボルドと呼ばれる魔物の一種だ。
「折角のお散歩なのですから、草花のいい匂いを堪能しながらもう少しゆっくり歩きましょうよー」
「仕方ないなぁ……じゃあ、手を繋いでもう少しゆっくり行くか」
「はいっ♪」
魔物は人間を襲う凶悪な生物だが、コボルドは別だ。
花の香りにうっとりとした笑顔を浮かべているところからもわかるように、実際エルは凶悪のきの字もないほど大人しく、主人である僕に従順である。
そのためか、ここらの地域は反魔物地域であるにも関わらずコボルドの飼育が認められており、このように『形式上では』彼女は僕のペットとして一緒に暮らしているのだ。もう飼い始めて2年程になる。
「くんくん、すりすりー♪」
「こら、歩いてる時に身体を擦り付けられたら歩き辛いじゃないか」
「えーちょっとぐらい良いじゃないですか」
「まったく……ご主人様の言う事を聞けないのか?」
「……はーい」
2年も一緒に居れば彼女の行動で大体の感情もわかる。
彼女が僕に身体を摺り寄せて匂いを嗅いでくる時、それは甘えたい時だ。できればそれに応えてやりたいが流石に散歩中は困るので止める。
すると彼女は、口を尖らせ頬を膨らませてと、あからさまに不機嫌になってしまった。ぶらぶらと振っていた尻尾もぴたりと止まっている。
「そんな不貞腐れるなって。家に帰ったらいっぱい甘えさせてあげるからさ」
「わふ……絶対ですよ!」
不機嫌な表情も可愛らしいものだが、笑顔のほうが断然良いので、頭を撫でながら機嫌を取る。
するとたちまち頬を緩ませ、尻尾もパタパタと振り始めた。どうやらすぐに機嫌が良くなったようだ。
「勿論だよ……ん?」
「んん? どうかなさいましたか……って、この声は……」
機嫌が良くなった彼女と手を繋ぎ、再びのんびりと歩き始めたところで、何か叫んでいるような声が聞こえてきた気がした。
僕よりもよっぽど耳の良いエルにはハッキリと聞こえたようで、さっきまでの緩い表情から一変して緊張感のある顔立ちを浮かべた。
「大変ですご主人様! 男の子が川で溺れてるみたいです!」
「何!? それは大変だ!」
この場から肉眼では見えないが、どうやら川で男の子が溺れているらしい。この声はその男の子が必死に助けを呼んでいるものなのだろう。
その叫びを聞き取ったエルはすぐさま駆け出し、犬の魔物らしくグングンと加速してあっという間に遠くまでいった。
「相変わらず足速いな……」
自分も足の速さには自信はあるが、残念ながらエルにはとても追いつけそうにもない。それでも自身で出せる最高速で彼女の後を追う。
しばらくすると川の中で一部白い泡が立っているのが見えてきた。おそらくそこが男の子が溺れていた場所だろう。
そう、溺れて『いた』場所だ。そのすぐ近くの水面には小さな子供らしきものを抱えた茶色い生物が岸に向かって泳いでいるのが見えた。つまり、僕よりも早く駆けていったエルが川に飛び込み、得意の泳ぎで男の子を助けたのだ。
「ぐぇ、げほっごほっ……」
「大丈夫?」
「う
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