10話 別れの記憶と忘れられない過去

「……遅い!」
「約束の日だというのに、奴等来ませんね……」

10日前と同じ場所で宿敵を待っていたオレ達。目的は勿論、そいつらと戦い勝つためだ。
だが……いくら待てども、その宿敵達が現れる気配がなかった。
普段なら奴らはとっくに現れていてもおかしくない時間なのに、姿を一切見せない事に、オレは少しイライラしていた。

「待たせる事でオレを苛立たせて冷静な判断をできなくさせる作戦か?」
「失礼ですが、それはないかと思います。そんな小細工でどうにかなると思っている相手でしたら、とうの昔に奴等はティマ様の栄養となっています。それにそんな作戦を企むほど、奴等は弱くありません」
「ほう、言うじゃねえかウェーラ。だが、たしかにその通りだ」

これはオレの冷静さを欠くための作戦なのではないかと一瞬考えたが、それはすぐに捨てた。
何故なら、奴らはそのような小賢しい作戦を取るような人間ではないからだ。
武器や装備に色々小細工こそしてくるものの、戦いにおいては堂々と正面から掛かって来る。今までしようと思えばできたであろう不意打ちをしてきたことは一度としてないので、そういう点は信用できる。

「しかし、それなら奴らはなぜ来ない?」
「わかりません。病気に罹るような人間とは思えませんし……」

だが、それならば何故奴らは現れないのか。
妹のほうは治癒魔術も使えるので、前の怪我が治っていないという事は無いだろう。病気に罹るようなひ弱さもないので、身体の調子が悪いから逃げたとも考えられない。
そもそも、高熱でもオレを殺すために返り討ち覚悟で来るような奴だ。オレ達から逃げたという択は無いと考えて良いだろう。

「私が人間に紛れ奴らが住む村で調査をしてきましょうか?」
「そうだな。奴らの身に何か起きたのかもしれん。行け」
「了解しました」

いったい何が起きたと言うのか……ただの人間であれば何をしていようが興味はないが、随分と長い間戦ってきた相手となれば話は別だ。
一切心配はしていないが、オレを放ってまで何をしているのかは気になる。という事で、配下のウェーラの提案に乗り、奴らが何をしているのか調べさせる事にした。

「……ったく、なんだってんだ」

ウェーラが村へ転移し、一人その場でぼーっと待ち始めて少し時間が経った頃。
ふと、どうして自分が奴らの事をそこまで気に掛けなければならないんだと思い至り、思わず悪態をつく。
いくら付き合いが長いとはいえ、奴らは全ての人間を殺す前に立ち憚る障害でしかなかったはずだ。来ないなら来ないでこちらから奴らの村へ向かい、村諸共滅ぼしてしまえば良いだけだ。
それなのにオレは悠長に奴らが来るのを待ち、挙句来ない原因を配下の魔女に調べさせている。というか、いつからか人間を、その中でも奴らを殺すという目的から、奴らと戦い勝つ事のほうが目的となり楽しみになっていた。
それに関係してか、人間を食事目的以外で殺す事が滅多に無くなったように感じる。あれだけ強く感じていた人間への憎悪が、奴との関係が続くうちに薄れていったようだ。
奴らのせいで自分が変わってしまった事実に余計イラつく。だからといって、一旦待つと決めたのに今更村に行って人間を皆殺しにするのも馬鹿らしいので大人しく待つ事にする。

「バリバリ……むしゃむしゃ……ふぅ……遅い!」

昼前ぐらいから待っていたというのに、もう太陽は沈みかけている。
それなのに奴らが来るどころか、ウェーラすら戻ってこない。
あの魔女、戻ってきたらどんな罰を与えてやろうか……そんな事を考えながらオレは、腹が減ったのでそこら辺にいた熊を殺し食いながら待ち続けた。

「……」
「やっと戻ってきたか……ってどうした?」

そして太陽が沈み切ったところで、ようやくウェーラが戻ってきた。
ここまで主を待たせた罰で殺す……には惜しい人材なので、半殺しにしてやろうと思ったのだが、相当困惑し疲れ切った表情を浮かべていたので一先ず罰を与えるのは置いておき、どうしたのかを聞く事にした。

「いえ……奴らの住む村に行き調査をしたのですが……その……」
「なんだ? 勿体ぶらずに早く言え。死にたくはないだろ?」
「ひぃぃ……、で、では……」

ごにょごにょと口を濁すウェーラ。思い悩んでいると勿体ぶる癖のある奴だという事は知っているが、それが少しイライラする。
だから少し脅し、さっさと言うように急かした。

「奴らが住む村、ティムフィトに向かい住民に話を聞いてみたのですが、どいつもこいつも奴らは我々を倒しに早朝には村を出たと言っていました」
「何!? それは本当か?」
「はい。奴らの住処だと思われし家にも行きましたが、そこには人の気配は無く、侵入してみたところ確かにあの小娘の物と思われし魔道具こそあったものの、奴らはいませんでした」


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