「少女の魂よどうか主の下へ還り……」
ぽつ、ぽつ、と、少し雨が降る日の夜。
空っぽの頭が拾った音は、雨音と誰かが泣く声。それと、フーリィが紡ぐ祈りの言葉だけだった。
「そして、安らかな眠りを与え給え……」
先日、村に住む一人の少女が死んだ。
その少女は村の外へ出ており、帰ってくる途中で事故に巻き込まれたらしい。
なんでもその地域は数日前に暴風雨が降っており、地盤がかなり緩んでいたらしい。そして、その少女が乗った馬車がその山道を通っていたそのタイミングで、大規模な土砂崩れが起きたみたいだ。
御者は土砂崩れが起きた時、衝撃で投げ出されていたおかげで大怪我こそ負ったが死なずに済んだらしい。だが少女は大量の土砂の下敷きになり……そのまま亡くなった。
「彼の者の魂が、再びこの地へ導かれるのを見守り給え……」
「う……うわあああああああああああああああああああああああっ!!」
その少女は……妹のホーラだった。
「ああああああああああああああああ、あっああああああああああああっ!!」
たった一人の、大切な家族だったホーラが死んでしまった。
ホーラの死を認めたくない。だが、認めたくなくても、ホーラの死は現実。
深い傷を付けたまま、死に装束を着て棺桶の中で眠るホーラは、二度と目覚めることはない。
直視したくない現実が、葬儀という形で重く圧し掛かり……だけれどもやはり認めたくない俺は、パニックになり取り乱す。
周りの目も気にせず、雨と混じった涙を流しながら、大声で泣き叫ぶ。
「うわああああああああああっああああああああああああああぁ……」
「落ち付け、タイト……今お前が取り乱したら、葬儀も滞ってしまう。それは、ホーラにも悪いだろ?」
「……」
そんな俺の背中を、いつになく優しく叩きながら、落ち付くように諭すティマ。
正直なところ、落ち付けるわけがない。残されたたった一人の家族を失ったのだ。落ち付くなんて不可能だ。
だが、確かにティマの言う通りだ。俺が取り乱したせいで、フーリィの言葉も一瞬止まってしまった。葬儀を長引かせては、死んだホーラにも悪い。
「取り乱すのは、また後だ……今は、兄としてしっかりとホーラを……見送るんだ……」
「……ああ……」
全くもって落ち付いてはいない。心は荒れている。だが、一応泣き叫ぶ事を耐える程には乱れを収めた。
いつもはすらすらと言葉を紡ぐティマが、たどたどしく言葉を発する。こいつだって、ホーラが無くなった事はそれなりにショックなのだろう。
俺の震えた背に置かれた手は、俺と同じように震えている。
「……あのバカ……何人間やめてるの……呪い殺すわよ……」
ショックなのは自分だけではない……周りの様子を見ると、他の参加者だって、それぞれホーラの死を嘆いていた。
ウェーラも下を向いたまま、何かをずっと呟いている。その声は、強くなった雨音のせいで聞こえない。
いつもホーラに対して呪い殺すなどと言っていた魔女は、内心どう思っているのだろうか。
『うえええ大おやぶ〜ん!!』
「……お母さん……」
「ひっく……大丈夫っす。ドニー達、ホーラちゃんを連れて来てくれてありがとうっすよ……」
わんわんと泣くゴブリン達。その中に一人だけ居るホブゴブリンが、モックの娘らしい。
彼女達は出張に行っているホーラと知り合い、仲良くなったらしい。大親分とはホーラの事だろうか、見知らぬゴブリン達は、わんわんと大声で泣いていた。
また、土砂に呑まれてボロボロになったホーラを掘り出し、ここまで丁寧に運んで来てくれた。感謝してもしきれない。
「ぐす……ホーラさん……」
「まだ若いのに……身体もボロボロになっちゃって……」
「痛かっただろうな……」
他にも、ホーラの葬儀に参加してくれた大勢の村人達が、それぞれ別れを惜しんでいる。
この時代の人達にとって俺達はまだ数ヶ月の付き合いしかないのに悲しんでくれている……それが、少しだけ嬉しかった。
「僕が……僕がもっと強力なお守りを作れたら……くそ……くっそおおおおおっ!!」
「落ち付いてヴェンくん……貴方のせいじゃないわ……」
「でも……でも……うわああああああああああああああああああ!」
そして、ホーラが惚れ、ホーラに惚れていたヴェンは……雨音に掻き消されない程大きな声で泣き叫んでいた。
血塗れになったホーラの首にはボロボロになったお守りが掛けられていた。
このお守りはヴェンが作ったものだそうだ。身に付けている者が危険に晒されたら自動で結界が張るようになっていたようだが……土砂崩れには耐えられなかったのだろう。その事を悔やんでいるようだ。
でも、ウェーラの娘が言う通り、彼は悪くない。
むしろ妹の無事を祈りそこまでやってくれたのだ……感謝こそすれど、責めることなどできない。
「ど
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