旅番外編! ゆく年くる年ひつじ年

「ふんふふっふっふ〜ん♪」
「お母さん何作ってるの?」
「あ、ドリー。起きたのね」
「うん」

現在16時。
愛する夫に教えてもらった鼻歌を奏でながら料理をしていたら、お昼ご飯を食べ終わってお昼寝をしていたはずの愛娘、ドリーが後ろから声を掛けてきた。
私自身もそうだが、ドリーはもこもこの羊毛に身体を包まれた羊型の獣人系魔物、ワーシープだ。体毛の効果もあって普段なら日光が完全に無くなる夕方から夜頃まで日向で寝ているのだが、作っている物の良い匂いを嗅ぎつけたのか、今日はちょっと早く起きたようだ。

「それでお母さん何作ってるの? 何か練ってるけど……」
「ああこれ? これはお蕎麦って言う、ジパングの麺料理だよ。今日みたいな一年の終わりの日には年越し蕎麦って言うのを食べるのが習慣だったってお父さんが言ってたから、作ってみようかなと思ってね」
「へぇ〜」

蕎麦の香りがやはり気になるのか、何を作っているのか聞いてきたドリーに蕎麦を作っていると教える。
なんでも、ジパングに近い文化を持つ夫の出身地では年末には蕎麦を食べて年を越す習慣があるとの事で、折角だから我が家でもそれをやってみようという事になったのだ。
という事で年内最後の日である今日、こうして蕎麦作りを昼過ぎから行っていたのだ。

「おそば……私食べた事あったかなぁ?」
「んー……ドリーが産まれてからは一回だけカリンが持ってきてくれたものを食べた事があったと思うけど、まだ2歳にもなっていない頃だったから覚えてないんじゃない?」
「うん。覚えてない。美味しいの?」
「んー……私が作った料理で不味かった物ってある?」
「ない!」

この前、昔一緒に世界中を旅していた刑部狸のカリンが蕎麦の材料を持ってきてくれたので、一から作ってみている。作り方もその時カリンから聞いたので、よっぽどの事がなければ不味くはならないはずだ。
ただ一つ問題があり、蕎麦自体食べたのが相当昔で、味がうろ覚えというところだ。数週間前試しに作ってみようかとも思ったが、お父さんやお母さんも一緒に食べるとなると材料の残量が怪しくなるので試せていない。
まあそれでも、記憶を信じて味の調整はするつもりだ。作り方の手順はメモもあるし、そのメモに書かれている物はカリン自身が実際に作っておいしい物という話なので大丈夫だろう。

「という事で夜ご飯は楽しみにしててね」
「うん! あれ、そういえばお父さんは? ジパング料理を作ってる時はわりとお母さんと一緒に作ってるのに……」
「お父さんは今出掛けているよ。なんでもタクマ君が奥さんにプレゼントするもので悩んでいるらしくて、それの相談に乗りにね」
「そうなんだ〜」

ちなみに夫は現在外出中。義理の弟とも呼べる昔からの知り合いの相談に乗りに行っている。
たしかにドリーの言う通り、夫は普段料理ができない事もあってあまり手伝ってくれないが、ジパング料理の時は進んで手伝ってくれている。それなのに姿が見えなかったので疑問に思っていたのだろう。

「ただいまー」
「あ、お父さんの声だー♪」
「おっ噂をすれば帰ってきたみたいね」

なんて、夫の話をしていたら丁度帰ってきたみたいだ。
玄関の方から愛しの旦那の声がキッチンまで響いてきた。
段々大きくなってきた足音、そして……リビングの扉が、ガチャリと開かれた。

「ただいま。おっ良い匂いがする」
「おかえりユウロ。今は夕飯のお蕎麦を作っているところだよ」
「おかえりお父さん!」

扉の向こうから現れたのはもちろん、私の愛しの旦那、ユウロだ。
もう年齢は30を越えているが、かつての旅の途中で何度も魔界に行き、しかも王魔界まで訪れ、そして何より私との度重なる交わりを経てすっかりインキュバスになっているので、出会った10代の頃と何一つ変わらない姿をしている。

「思ったより早い帰りだったね。てっきり夕方頃になるかと思ってたよ」
「まあポータルが思った以上に空いていたってのもあるけど、それ以上にすんなりとプレゼントが決まったってのもあるな。たまたま立ち寄った1件目にピッタリな物があったんだよ」
「へぇ……まあでもそれなら良かったんじゃない? もうちょっとお話でもしてくるかと思ったよ。タクマ君は大事な弟なんでしょ?」
「まあ、ポータルのおかげでわりといつでも会いに行けるし、そもそもあっちはサプライズでプレゼントしたいらしくて、今日は隙を見て来ただけだからそこまで時間取れないんだとよ」

積もる話もあっただろうし、もう少しゆっくりと帰ってくるかと思っていたが、思った以上に早く帰ってきた。
言ってしまえば相手だってユウロの家族みたいなものだし、もうちょっとゆっくりしてきても良かったのにとは思う。とはいえ、ユウロと一緒にいる時間が長いほうが私としては嬉しいので別段困った
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