「きゃあああっ!!」
「はははっ! 逃げられると思ったか小娘!」
父様が汚らわしい人間に殺されて、およそ5年が経過した。
だがその5年間で、オレの中にある人間への憎しみは消えるどころか、何十倍にも膨れ上がっていた。
だからこそ、まだまだ父様には程遠いもののバフォメットとして順調に育ったオレは、今日も憎き人間共の村を襲い、人間を爪で引き裂いたり魔術で呪い殺したり、また美味そうな奴は食い殺したりしていた。
「イヤ、助けて……!」
「残念だったな。人間の命乞いを聞ける耳なんてオレは持ち合わせてないんだよ」
「い、いやあああぁぁぁ……あがぁっ」
「もぐもぐ……んー、やっぱ肉が付いたメスは美味いな」
オレに向かってくる者は、魔術で殺したり、握り潰したりと、一人一人確実に殺していく。
一気に殺す事もできるが、それはちょっと物足りない。父様を殺した人間共を、一人一人恨みを込めて殺さないと気が済まないのだ。
その中でも柔らかそうな身体をした人間は、オレの食料になってもらう。こんなゴミ同然な生物でも、個体によってはとても美味いものだ。
「くそ! 娘を返……ぐぺっ!!」
「ん? なんか言ったか人間?」
一人メスを食べた瞬間、目の前に槍を持った初老の男性が突っ込んできた。だがその矛先が当たる前に、オレが殴った事で頭が吹き飛んだ。
何か言おうとしていたようだが、顔がなければ何も喋る事などできまい。
「くそ……なんでバフォメットなんて凶悪な魔物がこんな場所にいるんだよ!」
「助けて下さい神様! 勇者様!」
「ははっ! 喚け叫べ! 貴様ら人間など一人残らず殺してやる!!」
命乞いする者、オレの力に絶望する者、神頼みする者……その全てを平等に、恨みを込めて息の根を止める。
こんな事をしても父様は帰って来ない。だが、こんな事をし続けてもオレの怒りは治まる事を知らない。
だからやめられない。人間を一人残らず殺しきるまで、止まる気は無い。
「ははははっ、死ね! 死ねえ!!」
束になって掛かってこようが、ひ弱な人間ではオレの足下にも及ばない。
一人一人がただの肉塊に変わっていく事に、目標が近付いていると実感でき悦びに身体が震える。
「人間は皆殺しだあああああ!!」
「……そこまでだバフォメット!!」
「ぐッ!? な、なんだ?」
逃げまどう村人を殺すべく、爆発呪文を唱えようとしたところで……何者かがオレの後ろから鈍器のような物で殴りかかってきた。
まさか人間如きに後ろを取られるとは思っていなかった。いったい何者なのかと、急いで後ろを振り返った。
「キサマ、何者だ!? まさか勇者か?」
「いや、違う。ただの兵士だ。魔物狩り専門のな」
そこには、兵士と言う割には、鎧や兜の一つすら身に着けていない、一人の若い(とはいえ10歳のオレよりは年上であろう)人間のオスが立っていた。
鈍器で殴られたような気がしたのだが、その手には何も持っていないし、そこら辺にそれらしき物も転がっていなかった。
「勇者ではない……ならば恐れる必要はない。死ね人間!」
このオスの武器がサッパリわからないが、勇者ではないという事はどのみちたいした事は無いだろう。
さっきの後ろからの不意打ちは喰らってしまったが、正面を向いていればそんなヘマはしない。
そう思い、オレはこのオスを裂き殺すため飛びかかった。もちろんこいつなんかがかわせるわけがない、そう思ってだ。
「ふ……はあっ!」
「何っ!?」
だが、あろう事かこいつはオレの動きに合わせて動き、オレが切り裂かんと振り下ろした右腕を、奴の右腕が身体に当たらないように流した。
この五年間、勇者でもない人間がオレの動きについて来れる事など一度もなかった。多少の魔力は感じるものの、奴に加護の力は感じない為、ただの人間である事に間違いは無いはずだ。
「クソ……人間の分際で……!!」
ただの人間に攻撃をかわされた事でオレの頭に血が上った。
だからかオレは冷静さを失い、怒り任せに人間へと殴りかかった。
「やぁ、はっ!!」
「グオッ!?」
嘗めていたとはいえ、きちんと相手を殺す為に繰り出した右腕がかわされたのだ。怒り任せの単調な攻撃が当たる筈もなく、軽くステップを踏まれただけでかわされて、お返しとばかりに奴の拳が腹に食い込んだ。
重い一撃に一瞬息が止まる。一瞬ぐらっとしたがどうにか踏みとどまる。
「まだまだ!」
「ぐあっ、がっ、グボッ、ぐっ、ば、バリアー!」
「ちっ……」
しかし、奴もその隙を逃がさずに連続で攻撃をしてくる。
反射で腹を押さえたところに、足に強力な蹴りを入れられる。そのせいでバランスを崩しそうになったところで、今度は逆サイドの脇腹に蹴りを入れられた。
あまりもの痛みに思わず怯む。その隙に懐に入り込み、顎を打ち砕い
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