友達のお話

「うぅ……うぅぅ……」
「泣いてもええ。辛かっただろ? 泣きたいだけ泣いて、落ち付いたらご飯にしよ、ね?」

あの日……初めてお婆ちゃん達に話しかけた、忘れられない日。

「うぅ……うぇぇぇぇぇえっ!!」
「よしよし……もう大丈夫じゃよ……めいっぱい泣いたらええ……」

お婆ちゃんが私に言ってくれた言葉は、お婆ちゃんの温もりは、私の中から、人間に対しての恐怖と、両親や友達、集落の仲間を失った悲しみを、全て包んで、消してくれた……

「うえええぇぇぇ……ぐす、ふぇぇぇぇぇえっ!!」
「よしよし……ばあちゃんの胸の中で、苦しいもの全部流すとええ。もう怖いもんはねえからな……」

このお婆ちゃんなら、安心できる。本当にそう思えた。
それでも……まだ私は……



お婆ちゃん以外、人間を信用できなかった……



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「はい。前よりも効くお薬です。お大事にしてくださいね」
「ああ、いつも済まないねスノア君」
「いえいえ、元気になってくださいね神父様」

いつも通りの夕方。西日が窓から射し込み、診察時間も終わりに近付いてきた。

「そういえば……あのワーウルフはどうしているんだい?」
「リムですか? 一応元気にはしてますが……まだお婆ちゃん以外にはあまり心を開いていない感じですね」
「そうか……それは大変だね」

今日最後の患者であった、この村唯一の神父様(腰痛持ち)が帰れば、診療所は閉めるつもりだ。
そんな神父様が、うちで世話をしている魔物、ワーウルフのリムについて聞いてきた。
彼女がこの村に来てからそろそろ2年になるが……未だにお婆ちゃん以外には完全に心を開いてはくれていなかった。
一応僕が話しかけても反応はしてくれるし、ご飯もちゃんと食べてくれるし、たまに僕の手伝いをしてくれるけど……どうも壁を感じていた。
まあ、名前は教えてくれたし、事情も話してくれたし、顔を合わせようともしない他の村人達よりは信用されているとは思うけど……一緒に暮らしているのにそっけないので、少し寂しい。

「神父様もリムを心配して下さるのですか? それは立場的に大丈夫なんですかね?」
「いくら魔物とはいえ、主神様がまだ何も悪い事をしていない子供まで殺せなど非道な事を言うとは思えん。そろそろ2年経つが、誰もワーウルフになっておらんところをみると、大人しく良い子でいるのであろう?」
「ええまあ。おそらく人を襲う事は無いと思います。襲ったとしても、おそらくそれは自衛でしかないと思います」
「ならば問題は無い。しかし、子供ですら殺そうとしたとは……そこの兵達が暴走したか、それともそもそも教団を偽った暴徒の仕業か……どちらにせよ、主神様の名を語り虐殺を行った者達には憤りを感じるよ」
「そう……ですね……」

心優しい神父様も心配してくれているが……こればかりはどうしようもない。
幼少期のトラウマはそう簡単に拭えるものではない……僕だって小さい頃服の中に入ってきて身体の上を暴れ回ったカエルが未だに苦手で、見るだけで鳥肌が立つ。

「はぁ……しかし今日は疲れたな……最近は夜遅くまで新薬の研究をしていて寝不足なのもあるだろうけど……」

神父様を見送った後、準備中の札を掛けてから、奥へ行き夕飯の準備を始める。
診察室にお婆ちゃんの姿がなかったので、おそらく先に戻ってリムの相手をしているのだと思う。日中は家の方で一人にさせているので、急いで姿を見せに行ったのだろう。
リムばかり構って……と、小さい頃なら嫉妬していたかもしれない。もちろんもう20歳を越えたのだから嫉妬する事は無い。むしろ自慢のお婆ちゃんの良さをリムにはもっと知ってほしいものだ。

「さて、ご飯を作るか……」
「スノちゃん、今日の夕飯は何かの?」
「あ、お婆ちゃん。それにリムも」
「……」

キッチンに立ち、調理を始めようとしたところで、後ろからお婆ちゃんの声が聞こえてきた。
振り向くと、そこにはお婆ちゃんと、出会った頃より少しだけ大きくなった銀色の毛のワーウルフ、リムが手を繋ぎながら立っていた。
まあ、あの頃は5歳で、今は7歳なのだから、大きくなって当たり前なのだが……それでもまだまだ小さな子供の彼女は、ジッと真顔で僕を睨んでいた。

「今日はハンバーグを作るつもりだよ」
「おお、ハンバーグか。リムちゃんの大好物だねぇ」
「うん。ハンバーグ大好き……」

今日の夕飯のメニューを聞き、自分の好物だからとうっすらと笑顔を浮かべたリム。その笑顔は、お婆ちゃんに向けて浮かべている。
このように、お婆ちゃんに対しては心を開いているようで、お婆ちゃんに対してだけは可愛らしい笑顔を浮かべたり、自分から話しかけたり、たまに一緒に遊んだりしているのを見掛ける。
でも僕にはそんな姿は一切
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