6話 女体化ドラゴンと低レベル勇者

「はぁ……はぁ……なんだって言うんだクソォ……!!」

水面に映る影を殴るオレ様。
それでも消える事のない、オレ様の顔を見つめる褐色肌の人間のメスのような顔……オレ様が怒った表情をすると同じく怒った表情を浮かべ、口から炎を吐きだすと同じように炎を噴き出す水面のメス……
つまり、水面に映るメスは、オレ様自身だという事だ。

「ふっざけんなよ! なんで……なんでこんな弱っちそうなメスになるんだよ!!」

しかし、そんな事信じられるはずがなかった。
何故ならオレ様は産まれた時からオスで、しかもこんな人間とはかけ離れたドラゴンだ。
これはきっと悪い夢に違いない。そう思って水面を覗いても……そこに映るのは、絶望の表情を浮かべたメスの顔だった。

「クソォ……夢なら覚めてくれよぉ……」

拳を岩肌にぶつけながらそう言ったところで、この悪夢から目覚める事はない。
これが悪夢じゃなく現実だという事は、オレ様自身もわかっている。
わかってはいるが……認めたくはなかった。

「なんでこんな悪趣味な野郎が魔王になってるんだよ……ふっざけんなよクソがあああああ!!」

そう……これは、現魔王の魔力のせいだ。この身体になった時,なんとなくではあるが現状がわかった。それもこの忌々しい魔力のせいではあるが。
どうやら、この前の村にいた人間のメスと魔物を足して2で割ったような奴等は、全員この時代の魔王……サキュバス属の魔王の影響を受けた純粋な魔物みたいだ。『この時代』というのは、俺がいたはずの時代から500年は経っている……らしい。そんなもの普通に考えたら信じられっこないが、この気持ちの悪い魔力を通して魔王が伝えてくるし、時間が一気に進んでいるからこそ納得できる事が多々あるため信じるしかないだろう。
だがそれがどうした。認めたくないのには変わりは無い。

「があああああっ! 消えろ! 消えてくれええええっ!!」

水面を殴る。何度も何度も、水面が泡立とうが、水が跳ね暴れようが、映るメスが消えるまで殴り続ける。
だが、いくら殴ろうがもちろん消えるわけがない。波に揺らめく影はいつまでも残り続ける。
それはわかっているが、現実を直視したくないオレ様は、その腕を止めない。

「はぁ……はぁ……」

とはいえ、腹が減ってる今の状態では、殴り続けるというのも無理がある。この前人間を食べ損ね、その前後も全く何も食べていない。そのせいで腹が減って仕方がないのだ。
それ以上に、こんな事をしていても何も現状が変わらない事を理解しているので、水面を殴るのをやめた。

「あーくそ……腹減ったなぁ……」

そのまま力無くその場で倒れ込むオレ様。疲れたのもあるが、単純に腹が減って力が出ない。
身体が小さくなった分、食べる量も少なく済むかもしれないから、大量の人間でなく野生動物でも足りるかもしれない。だが、腹が減り過ぎて、その動物を狩りに行く気力すら起きない……

「あーあ、餌の方から舞い込んできてくれねえかなぁ……」

そんな気楽な事を言うが、そう上手くいくとは最初から思ってなどいない。それでも、ここから出るどころか、動く気力すら起きなかった。
このままメスになったこの姿を、まさに生き恥を晒すぐらいなら、飢え死にするのもいいかもしれねえ……ちょっとずつ、そう思えてきた。

「ふぅ……ん?」

そんな時、オレ様の鼻孔に、微かな香りが届いた。

「なんだこの匂い……悪かねえな……」

その香りは……なんだかとても美味しそうで……それでいて心地良いものだった。
どうやら何かが舞い込んできたようだ。なんて都合のいい事だろうか。

「ん〜……感じからして人間か? でも普通の人間の匂いじゃねえな……」

その何かは……違和感があるが、おそらく人間だろう。
ようやく飯にありつける……そう思い、最後の力を振り絞って立ち上がり、侵入者を撃退する準備をする。

「おいそこの貴様、何者だ?」
「うげっ気付かれた……」

匂いと気配のするほうへ声を掛けると、案の定人間のオスの声が聞こえてきた。
まさか気付かれないと思っていたのか、驚き慌てた様子を見せながらそのオスは姿を現した。

「お、俺は勇者アルサ! お前を退治しに来た!!」
「勇……者? どこがだ?」
「う、うるさい! まだ駆け出しだが悪いか!!」

自分の事を勇者と名乗る、アルサという名の目の前にいるオス。
たしかにオレ様に向ける剣や身に纏う鎧からは聖なる力を感じるし、恰好だけなら勇者と言えるかもしれないが……気迫もないし、正直勇者と呼べるような強さがあるとは思えなかった。
どうやらまだまだその称号にふさわしい実力が伴っていないらしい……それでオレ様をドラゴンだとわかって退治しに来るとは、よっぽどの自信家なのかバカなのか、それともこの時代のドラゴンはこ
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