「ふぁ〜……今日も相変わらず平和だなぁ……」
「良いじゃねえか平和で。ウチはゆっくり寝て食べてとできるから平和で良いよ。ヒーナは嫌なのか?」
「まあ平和が悪いとは言わないけど……ちょっと刺激的な事が起きてもいいんじゃないかなって思っちゃうんだよね」
いつもと変わらぬ平和な村を、あたしはプリルと二人で見回りしていた。
自分で言うのもなんだが、昔から幼馴染みのメイと一緒に鍛えていたからか人間にしては強いあたし。それこそ今一緒にいるミノタウロスのプリルよりは強い。
あたしは戦うのが好きなのだが……それ故にこの村にはメイ以外に丁度良い相手がいないので、毎日退屈している。
自警団に入ればこの闘争本能も満たされるかと思ったが、ジェニア団長やタイトは強すぎるし、他は弱過ぎるしで、満足に戦える相手がいなかった。
まあ、たまに村長さんの命を狙ってやってくる勇者と戦えたりするのでそこまで不満はないが……最近はそういうことも少ないし、来ても雑魚だったりと、満足に戦えておらず、あたしはそういったハプニングでも起きないかとここ最近はいつも考えていた。
「大体夜に起きる事件なんて裏路地で魔物が男を襲ってるとかそんなものしかないじゃない」
「まあね。ウチもたまには刺激的な事が起きてもいいなと思わない事はないからわかるよ。かと言って事件が起きて仕事が増えるのも嫌だけど」
「まあね。あーあ、何か襲ってこないかな〜」
「平和を守る自警団がそんな物騒な事言うなし……」
まあ、プリルの言う通りあんまり何かが起こってくれたらそれはそれで困る。
それに対応せざるをえない状況が来るよりは平和な方が良い。それはわかっている。
ただ、たまには本格的な格闘家とかと戦いたいものだ……メイ相手でもいいが、彼女は昔から熱くなりすぎて時々やり過ぎるところがあるので、勤務がある日はご遠慮願いたい。
「あ、お疲れ様です」
「ん? ああセックさんとミーテちゃん。こんばんは」
「こ、こんばんはです……」
あれこれとプリルと言葉を交わしながら、村の外れの、明かりがほとんどない場所を見回りしていると、散歩中らしき小説家夫婦と出会った。
「こんな遅い時間に出歩くと夜襲してくる魔物がいて危ない……と言いたかったけど、二人ならまず大丈夫か」
「セックさんにはミーテちゃんがいるもんね。ところでこんな時間にどうかしたのですか?」
そもそも滅多に外出しない二人が散歩している事自体不思議だったが、深夜とも言える時間に村外れを出歩いている事に驚いたので理由を尋ねた。
もちろんこの二人の事はよく知っているので不審な事をしているとは思っていないが、一応仕事なので尋ねた。
「何、気分転換の散歩だよ。こうして身体を動かして刺激を与えたほうがアイデアも生まれるし、適度な運動になって身体も解れるからね」
「なるほど……でもミーテちゃんはポケットの中に入っているから運動してなくないか?」
「あ、その……」
「ミーテもさっきまでは飛んでいたよ。ただ疲れたのといつものように他の人と顔を合わせないように隠れてるだけさ」
「あーなるほど。いい加減あたし達村の住民には慣れてほしいものね」
「す、すみません……」
なんて事はない、ただの気分転換の散歩だ。
小説作者という机の前に座りっぱなしの職業である彼らだ。ずっと座りっぱなしでは疲れるから、こうして散歩する事で固まった身体をほぐしているのだろう。
もちろんこの二人は夫婦なので夜の営みという名の運動もしているとは思う……だが、リャナンシーと成人男性という体格差が故、程良い運動にはならないと思うので、こうして時間のある時に散歩をしているのだろう。
「まあ特に問題はないと思うけど、夜道だし不審者や足下には気を付けてね」
「何かあったらウチらに言えよ!」
「はい。それでは……」
ちょっとだけ注意して、また退屈な見回りに戻ろうとした、その時であった。
グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!
「うわっ!?」
「な、なんだ!? 何の音だ!?」
何の前触れも無く、突然村中に何かの叫び声みたいな音が響いた。
「今の声は……空からか?」
「うぅ〜……」
「耳痛い……何なのよいったい……」
まさか本当にハプニングが起きるとは……そう思いながら、音の発生源であろう空を見上げると……
「……何もない?」
「ああ……いや、ちょっと待て。夜空に紛れて何か黒い物が……!?」
目の前には真っ暗な夜空が広がっているだけで、別に何もないように見えた。
しかし、プリルには何かが見えたようで……とても驚いた表情で固まっている。
「いったいどうしたのよ?」
「……おい、喜べヒーナ。お前が待ち望んでいた他者が襲ってくる感じのハプニングだ……」
「へ?
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