4話 古い記憶と嫌な予感

「いいか、何があってもここから出てきては駄目だぞ」
「どうして父様?」
「どうしてもだ。言いつけを守れない子は私の息子ではないぞ?」
「わかった! ボク、何があってもここから出ないようにする!」

ボクは、父様と二人で大きな洞窟の中に作った家に住んでいた。
父様が言うには、ボクが産まれた頃はもっと大きな家に住んでいたみたいだけど、魔術の研究をするにはこういった自然の中のほうがやりやすいから引っ越しをしたらしい。
そのせいで不便な生活をさせてゴメンなって父様はよく言ってくるけど、ボクにとっては最初からここが家だし、何より父様と一緒だったらどこで暮らしてても楽しいから構わなかった。
ボクは時に厳しくも優しい父様が大好きだ。父様と一緒ならどこで暮らそうがボクは楽しいし、幸せだった。

「それと、ここに入ったらしばらく外の様子を見るのもダメだ。この時計が夜ご飯の時間になるまでジッとしているんだぞ」
「うん。ボクジッとしているよ!」
「よしいい子だ。それじゃあこの箱の中に入るんだ」

今日もいつも通り父様とご飯を食べたり、魔術を教えてもらったりしていたのだけど、急に父様がハッとした表情を浮かべたと思ったら、ボクの身体より少し小さい箱に入れと突然言ってきた。
いきなり変な事を言ってきてどうしたんだろうとは思ったけど、父様はいつになく真剣だったし、困らせたくなかったから素直に箱の中に入った。

「それじゃあ、さっき言った時間になるまで絶対に動いちゃダメだからな」
「うん……にゅむ!?」
「いいな……絶対だからな……」
「むにゃ……ちょっと苦しいよ父様……それに何回も言わなくてもわかってるよ……」

ボクが入った後、箱の蓋を閉める前に、父様はボクの身体を力強くギュッと抱きしめ、頭を撫でながら念入りに動いては駄目だと言ってきた。
思えば、父様に頭を撫でられた事は今までも何度かあったけど、こうして抱きしめられたのは初めてだった。
ボクはなんだか恥ずかしくなったけど、父様の温かさが心地良くもあった。

「じゃあ蓋を閉めるぞ」
「うん」

ボクを離した後、ゆっくりと蓋を閉める父様。
外からの光が入って来なくなり、ボクの目の前は、完全な暗闇になってきた。




「……お前だけは絶対に死なせないからな、ティマ……」
「……え?」




完全に蓋が閉まる直前、そんな言葉が聞こえたような気がした。

「父様……? 父様!?」

嫌な予感がして、すぐ箱から飛び出そうと思ったけど……父様が魔術で蓋が開かないようにしたのか、押しても叩いてもビクともしなかった。
それどころか、外の音も何も聞こえなくなっていた……防音魔法を掛けたみたいだけど、いったい何をするつもりなのだろうか。

「くっ、こんなもの!」

父様は何があっても時間になるまでこの箱から出るなと言っていたけど、ボクはそんな事はお構いなしに箱から出ようと力任せに殴るが、やはりビクともしなかった。
初めて父様の言葉に逆らう……ちょっと怖いけど、このまま素直にジッとしているほうがもっと怖かった。
このまま父様が遠い場所に行ってしまうんじゃ……そんな考えが、ボクの心を不安と恐怖に染め上げる。

「出来るかわからないけど……やってみるしかない!」

いくら力任せに叩いたりしても箱は壊れるどころか蓋が開く事も無い……やはり父様が魔術で細工をしたようだ。
だからボクは箱の中で暴れるのはやめて、父様が掛けた魔術を打ち消す呪文を唱え始めた。
父様はボク達バフォメットの中でも相当魔力が高く、魔術の腕も相応に高い。
そんな父様の掛けた魔術だから、絶対に解除できるとは到底思えないけど……ボクはそんな父様の息子だ、やってできない事はない。
だからボクは、魔力を集中させて解錠呪文を唱え始めた。

「……」

やはり父様の魔術は強力で、そう簡単には解除できなかった。
それでも、ちょっとずつ、本当に少しずつだけど、結構時間は掛かったけれど父様の魔術を解除できてきた。
本気の呪いなら今のボクじゃどうあがいても解く事は出来ないけど、これは普通の術だからこそボクでもなんとかなりそうだ。

「……できた!」

そして……夜ご飯の時間になる1時間前になって、ようやく解除に成功した。
相当集中していたにもかかわらずここまで時間が掛かるとは……やはり父様の魔術の質は最高だ。


「ん……よいしょっと……」

解錠できたので、ボクはゆっくりと箱の蓋を押しあける。
時間になるまでジッとしていろと父様が言っていたんだから、きっと何かあるに違いない……そう思ってボクは、他の人には気付かれないようにそーっと、ほんの少しだけ蓋を開けて外の様子を覗いた。

「あっ! 父さ……」

箱から見えた隣の部屋……洞窟内の一番大きな空間に、父様はいた。

「あ……ああ…
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