「よっすローヴェ!」
「……えっと……どちら様?」
魔王歴○×3年10月13日。
朝も早くから家の玄関がノックされたので扉を開けてみたらそこには見知らぬサキュバスが立っており、俺に気軽に挨拶してきた。
この町は親魔物領なのでサキュバスがいる事自体に問題は無いのだが、こんな気軽に挨拶をするような仲のサキュバスは俺には居ない。
「おいおいどちら様とは酷いな。俺だよアインだよ」
「……は?」
「だからお前の友達のアインだよ! オッケー?」
「ノーオッケー。オレの友人のアインは人間でしかも男……ん? まてよ……男で魔物化……」
「おっ気付いたか。そうだよアルプになったんだよ」
訂正。玄関前に居たアルプは俺の親友のアインだった。
完全に女性の顔つきになっているが、言われてみればどことなく顔がアインの面影を残している。服装も彼がよく着ていたものだ。
「いったいどうしたんだ?」
「いやそれがよー。姉貴に一杯盛られたらしくってさー、朝起きたらアルプ化してたんだよ」
「盛られたって……」
昨日までは完全に男だったはずのアインがどうして今朝になって性転換なんぞしてるのかと思い尋ねてみたら、どうやら彼の姉が関与しているらしい。
彼の姉はたしか去年の今頃に隣町に住むバフォメットの元に行き魔女になっていたはずだ。
「いやな、姉貴が「インキュバス化した人間が普通の人間とセックスした時その人間は魔物化するって話あるけど実際見てみようにもインキュバスになってる人間つまり魔物の番になってる人間じゃ絶対シてくれないからあんたで試させて」なんて姉貴の魔力が籠った薬を渡そうとしながら言ったもんで全力で断ったら昨日の夕飯に混入しやがったみたいでさ」
「……ご愁傷様だな……」
「ああ……まあ姉貴の目論みは見事潰れたけどな! 姉貴の悔しがる顔を見れて朝から大満足さ!」
「……ああ、まあお前が困ってないなら別にいいけど……」
たしかに何かしでかしかねない人だけど……まさか自分の弟を実験台にしようとした挙句魔物化させるとは……
まあでも被害者本人が嬉しそうに高笑いをしているので別にいいとしよう。
「そんで何の用だよ?」
「ああ、ただの報告だよ。アルプになっちまったらもう女として生きるしかないからな」
「そうか……」
「なんだもしかしてエロい事してもらえると思ったか? 残念だが俺は見た目は女、中身は男だ。男のモノを触るなんて気色悪くて無理だ」
「いや別に……むしろそうでなくてホッとしたところだ」
「なんだよつれねえな……」
それにしても目の前の親友は見事なまでに見た目はサキュバスそのものになっている。
頭から黒く捻じ曲がった角を生やし、腰からは濃い紫色の翼と尻尾を生やして、耳も魔物特有の尖った物に変化していた。
それに男らしく筋肉質だった身体は丸みを帯びており、顔つきもどこからどう見ても男だったのに今は中性的な顔に変わっている。声だって高くなっていてまるで声変わり前に戻ったみたいだった。
こいつの事を知らない人なら元々男だったなんて信じられないだろう。
「まあ今日はただの報告だ。性別も種族も変わっちまったけど友達やめないでくれよな」
「なんだ不安か?」
「まあな。見た目だけとはいえ大きく変わっちまったから接し方がわからねえとか思ってるかもしれないし……」
「まあそれはあるが、そんな事でお前を嫌ったりはしねえよ。俺とアインはずっと友達だ!」
「ローヴェ……サンキュー!」
そんな元男、アインは……不安そうに俺を見つめてきた。
たしかに性別が変わって驚きはしたものの、話している感じは今までのアインとまったく同じだったのですぐに慣れた感じだ。
「それじゃあまたな!」
「おう。これからは女としてたくましく生きろよー」
友達を止める気は無いと言った事で不安は無くなったようで、にまーっと笑顔を浮かべながら去っていった。
女になっても、魔物になっても変わらねえなと思いながら、俺は寝坊癖のある親の代わりに朝ご飯の用意を始めたのであった。
……………………
「よっすローヴェ」
「おう……ってどうした?」
魔王歴○×3年10月16日。
今日は家でのんびりとしていたのだが玄関がノックされたので扉を開けてみたらちょっと元気のない様子のアインが立っていた。
「なに、単に遊びに来ただけだ」
「そうか……にしては元気ないなと思ってさ」
「いやまあそれは後で……」
丁度昨日一昨日と忙しかったのでアインと会うのは3日ぶりだが、元気がない以外は特に変わった様子は見られなかった。
ただ本人の気分と同じように尻尾が元気なく垂れ下っているところを見ると、やっぱりこの人間には無い部位はアインから生えている、つまり魔物になってしまったんだなと実感する。
「そういや昼飯食ったか?」
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