0話 これは始まりのお話

「ホーラ、準備は整っているか?」
「結界外しや回復術なんかの準備は出来てるよ。今すぐにでも発動できる。攻撃系も魔力を少し練るだけ。お兄ちゃんは?」
「完璧だ。身体も温まっているし、疲労も無い。もちろん装備の整備も出来ている」

後ろに控える妹のホーラと確認をし合いながら、俺は整備されていない山道を突き進む。

「今日こそ決着がつけれるといいが……」
「とか言って毎回戦うの楽しんでるようだし、本当はわざと引き分けに持っていってるんじゃないよね?」
「そんなわけあるか!奴は魔物だ、人を喰らい殺す存在である事には変わりは無い。生かしてはおけん!」
「そうは言うけどなんだかんだ仲良さげにしてるよね……私はあの魔女と仲良くなんて絶対できないけど」
「命を奪いあっている相手だから仲良くは無い。まあ奴はバフォメットだし、他の魔物と比べれば知能があって話が出来るから戦闘中につい熱くなって言葉を交わす事があるのは自覚しているが……」

進む目的はそう、俺が住む村の近くに棲む上位の魔物、バフォメットを殺す為にだ。
妹のホーラが言っている通り、奴と戦うのはこれが初めてではない……今日に至るまでに既に何十回と引き分けているのだ。
純粋な実力では悔しいが奴の方が若干勝っていると言えよう……そこいらの中級悪魔程度なら軽くあしらえるぐらいの実力はあるが、流石に勇者でもない俺では魔獣と恐れられているバフォメットには今一歩敵わない。
だが、俺には心強い味方が……魔術師である妹がついている。
妹の魔術は主に魔道具を使用した対魔物用のものが中心であり、バフォメット相手でも充分にサポートをしてくれる。
むしろ兄妹で息を合わせて戦えばバフォメットにも余裕で勝てるだろう……しかし、世の中そう簡単にはいかない。
厄介な事に奴には魔道に堕ちた女性……眷属である魔女が一人仕えている。
魔女もかなり優秀な奴であり、サポートである妹の邪魔をされ、思うように戦えず……結果、俺とバフォメットは互いがボロボロで気絶するという形で毎度引き分けになってしまうのであった。

「おっと……見えてきたよ」
「ああ……おそらく奴等も気付いているはずだ。気を引き締めろよ……」

妹と話をする事で若干だけだが緊張はほぐれた……しかし、ふと坂の頂点を見ると、見知った山羊の角が見えた。
間違いない……幾度となく戦っているバフォメットの角だ。

「……来たか、タイトよ……大人しくオレの飯になりにきたのか?」
「……ふん、随分と余裕そうじゃないか……ホーラ、罠探知だ」
「任せてお兄ちゃん!」
「ふん!無駄な事を……我が主ティマ様が罠を張るなどの卑怯な事をしていると思うのか?」
「あんたがしてそうだからねこの根暗魔女!」
「……今日こそ生意気な貴女を呪い殺して差し上げましょう!!」

坂を登り切り、対面した俺達。
巨大な山羊の頭や黒に近い茶色の毛に覆われた手の先の鋭い爪、そして不気味な杖と邪悪な魔力を持った魔獣と、その横に黒いコートで身を包みバフォメットをあしらった装飾がなされている禍々しい杖を持った魔女が俺達を待ちかまえていた。
バフォメットは強大な魔物……大きさもさることながら、その真価は魔物の中でも最高峰の魔力と力を兼ね揃えている事だろう。
もちろん側近の魔女も尋常じゃない魔力を持っている……油断していたら瞬く間に殺されてしまうだろう。

「大丈夫。罠の類はなさそうよ」
「そうか……さあ、今日こそ決着をつけてやる!!」
「臨むところだ!!今日こそ貴様を殺し、その骨身を喰らってやる!!」

俺は剣を構え、バフォメットと戦う準備に入った。
バフォメットの方も俺に不気味な杖を向け、強大な魔術を放とうと臨戦態勢を整えている。

「こちらから行かせてもらう!!」

後手に回ると不利になるのは目に見えている……なので、俺は相手が動き始める前に間合いを一気に詰め剣を振った。

「バカめ!!」
「ぐっ……」

しかし相手も馬鹿ではない。これぐらいの動きは想定済みだったようだ。
踏み込む俺の動きに合わせて1歩後ろへ下がってかわされ、俺が斬撃を外しバランスを崩したところへ鋭い爪が俺を切り裂かんと迫ってきた。
なんとか身を捩り直撃は免れたものの衣服の一部が裂かれ、チリとなって宙で消滅する。

「かわしたか……まあ、この程度で殺せるなら貴様は既にオレの腹の中だしな……」
「ふん……余裕でいられるのも今の内だ!」

すぐさま態勢を立て直し、余裕の表情を見せているバフォメットに向く。

「そうか……ならば今度はこちらからだ!!死ねえ!!」

不気味な杖の先から、魔力が形を成して放出された。
相手の攻撃魔術……小さな闇の塊が、周囲の草木を巻き込みながら俺に目掛けて飛んできた。
闇に飲まれた草木は一瞬のうちに枯れ果てる……どうやら生命の
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