ウタウタイ達が歌うウタ

…私は歌が好きだ。
もちろん聞くのも歌うのも好きだ。
それは私が『セイレーン』だから、という訳ではないだろう。
きっと私が人間であろうが他の魔物であろうが、歌が好きな事に変わりはないだろう。
そう思えるほど私は歌が好きなのだ。
歌を聞くだけで幸せな気分になるし、歌うだけで元気一杯になれるから。
けれども、今の私には歌関連で一つ問題がある。それは…

「♯〜〜♭〜♯〜〜〜♭〜〜〜〜〜…」

……………………………
そう、私はセイレーンなのに…歌が下手なのだ。
音程も上手く取れない、テンポも少しおかしく、歌っている私以外の者は私の歌では元気になれないし魅力も感じないのだ。
確かに、小さい頃から他の同年代のセイレーンと比べて余り上手く歌えなかった。それでも特に問題は無いと思っていたが、最近は特に酷くなってしまった。
今までが50点だとすると、今は20点のできだ。

「はぁ〜っ…」

おもわずため息をついてしまった。
しかし、なぜ最近特に酷くなってしまったのか、その理由は一応思い当たる。
きっとそれは、今私が会いに行こうとしている『あの男』の歌を聞いたからだろう。

あの男は人間なのにそこら辺のセイレーンよりもよっぽど歌が上手である。
その歌を、近くの町や村の人達に聞かせて、皆の顔を笑顔に変えている。
初めて私があの男の歌う歌を聞いたとき、今まで感じた事の無い胸の高鳴りを…元気を、そして幸福を感じた。
それと同時に、自分が歌う歌に自信が持てなくなった。
何故あの男は並のセイレーンより上手く歌えるのに、そして、私はセイレーンなのに何故歌が下手なんだろう。
私の歌では、自分以外は元気になれない…時には自分ですら…
あの男の歌なら、自分以外でも…それこそ皆が元気になれる…
じゃあ、元気になれない、幸せになれない私の歌は何なのだろうか?そもそも私の歌は歌なのだろうか?

そんな事を思ったら、私の歌は先程の様な酷いものになった。気持ちの問題だろうか。
どちらにせよこのままではいけない。このままでは私は歌が嫌いになってしまう。それだけは死んでも嫌だった。
ならどうすれば良いか…自分の歌が上手くなればいい…自分より上手く歌える人に教えてもらえば…!

そう思った私の翼は、自然とあの男の下へと動いていた。


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「おはようございます!!」
「…また来たのか」

私が元気良く挨拶したのに、明らかに嫌そうな態度を返してきたのがあの男―ミング・ファーレラその人だ。

「私はミングさんが歌を教えてくれるまで諦めません!」
「俺から歌が上手いセイレーンなんぞに教える事は何一つ無い」

何回こうして頼み込んでも毎回こう言って断られる。
でも諦めない。

「だから、私はセイレーンでも歌が下手だから教えて欲しいんです!!」
「…だったら同族に教えてもらえばいいだろ?」
「嫌です!!私はミングさんの元気になれて幸せな気分になれる素敵な歌が大好きなんです。だからミングさんに教わりたいのです!」
「魔物なんかに褒められても嬉しくないし、そもそも俺の歌は他人に教えられる程のものでもない」
「ムムッ!?またそんな事言って!ミングさんの歌は素晴らしいのです!!」

『魔物なんか』っていう言い方はミングさんが反魔物領出身だから別に良いとして、自分の歌の出来を低く見ているのがムッときた。

「そう言って人を持ち上げといて『実は私のほうが上手に歌えます〜』って感じだろ?」
「だから違いますって!私は本当に歌が下手なんです…ぅぅ」

…自分で言ってて悲しくなってきた。

「そこまで下手だって言うのであれば今ここで歌ってみろよ」
「えっ!?あの、それはちょっと…」

…下手だってわかっているからこそ、余り上手い人の前で歌いたくは無いのだか


「歌わないって事は、やっぱりお前の方が上手いってことなんだろ?」
「いや、そんな事は…」
「じゃあ今本気で歌ってみろよ!」

…え〜い、こうなりゃヤケだ!

「じゃあ今から歌います!!」
「おう!どうぞ!」

「♯〜〜〜♭〜〜〜〜♯〜♭〜〜〜〜〜〜…」

「ストップ!もういい!……………その、なんだ…悪かったな、青ハーピー」
「わかってくれましたか…って何ですか青ハーピーって!!」
「いやぁ、あの歌でセイレーンは無いんじゃないかな〜と。魅了も無いし、ある意味個性的過ぎるし…ぶっちゃけ音痴だし」
「うぅ…私はこれでもセイレーンです…」

そこまで言われると…駄目だ、泣きそう。

「っ!?…あーもー悪かったって。だから泣くなよ、な?」
「うぅ…ぐすっ…」
「…わかった!歌の歌い方教えてやるから!だから泣き止め!頼むから泣くのは止めろ!!」
「ぐすっ…ホントですか?」
「ああ、教えてやる!」

やったー♪


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