「ねえ、そろそろいいかい?」
対面座位で少年にしがみつき、腰を振りながら金の髪に鼻を埋めていたドラゴンへ、アストライアは声をかけた。
この二人、寝台があるというのに一度とて使いもせず、カーペットが敷いてあるとは言え、ひたすら床で交わり続けていたのだ。
まさにケダモノである。
「ッ、魔物!?」
ルーナサウラは蕩けきった表情を険しく引き締め、洗練された動きで身構える――腕と尻尾で少年をしっかと抱きしめ、腰は繋がりあったままだったが。
「ふわぁ……? あしゅとらいあしゃん……?」
トロンと焦点の合わない緑眼が彷徨い、扉の側で呆れ顔の女城主を、ボンヤリと映す。
文字通り寝かせて貰えずヤりっぱなしだったので、脳が溶けてハチミツにでもなった気分だった。
「さすがにもう二週間だ。この城にいる限り、疲れも、飢えも、老いることすらないとは言え、そろそろ休憩したらどうかな? お風呂にでも入って汗を流しておいでよ。そしたら、食事にしよう。……そこの娘の方は、もうお腹いっぱいかもしれないけれど、ね」
二人の結合部から、淫らな体液がトロリとしたたり……よだれのように、床へ落ちた。
* * * * * * * * *
「これが……星空……」
少年が生まれて初めて見た空は、満天の星空だった。
黒の上天に咲き誇る、爛漫の光。その一つ一つが、それら全てがあまりにも綺麗で。胸を満たす思いは、翠玉からあふれる雫と同じく……これまで知らなかった透明色のものだった。
紅の少女は背後からそっと手を差し伸べ、濡れた頬を優しくぬぐう。
「殿下、本当に目が……良かった……っ」
凜々しく強い騎士も、感涙で崩れそうな顔を精一杯に保っている。
「殿下じゃないよ。ちゃんと名前で呼んで?」
後ろを振り仰ぎ、蒼玉を見つめる。
すると、情交の積極さはどこへやら。地上の王者は顔までをも紅に染め、みっともなくたじろいだ。
「あ、あ、で、ですが、殿下!?」
「サーラ?」
「……み、ミリシュフィーン、様……」
「違うでしょう?」
「くっ……、り、リーフィ」
花のかんばせはフワリとゆるみ、直視した少女の胸を高鳴らせる。
「今さらその程度のことで照れられてもねぇ」
それまで静観していたアストライアが、からかい混じりに口をはさむ。
「やかましい! 慣れていないのだっ、仕方なかろう!」
「そんな恰好で言われても、説得力がないね」
ミリシュフィーンの背後には、ルーナサウラがへばりついている。両腕で肩を抱きしめ、それでも飽き足らず腰に尾を巻き付け、翼で首から下を覆っている。
「う、うるさいぞ!」
「うるさいのは君の大声の方なんだが。ところでトカゲ娘」
「トカゲではない、ドラゴンだ!」
「おお、すまない。で、件のドラゴン殿は、その力で一体どうするんだい? 多くの人間を殺し、家を焼き、国を滅ぼすことなど造作もない。それだけの力があるんだよ、その身にはね」
少女の脳裏に、シェーペール王国での日々が去来する。
外側に出て初めて気付く。居心地の悪い国だったと。
悪人なんて数えるほどしかいなかった。大国と比べれば豊かさでは劣るが、決して貧しいということはなく、何より自然あふれる美しい国なのだ。
ただ、『人と少し違うこと』が許されない国だった。
情け深き、大いなる許しを与えるはずの〈神〉は、魔王との闘争に注力なさるあまりか……いと高き天の、堅牢なる神殿の奥の奥までは、人の声などか弱すぎて届かない。
地に満ちる民草たちは、みな自分が生きるのに必死で。為政者や神官も、組織の枠組みを保つので手一杯だ。
だからこうしてあぶれてしまった。要は、定員を超えたのだ。ただ、それだけのこと。
『誰も悪くない』なんて綺麗事、少年の前では口が裂けても言うつもりはないが。
「ドラゴンはただ、懐中の宝玉を守るのみ」
「そう。ならば、その子をお守りなさい」
アストライアの言葉は素っ気なかったが、その表情は微かに和らいでいた。
「言われずとも」
「それから、君の主人は私なのだが? その力、誰が与えたと思っている?」
「お前は、わたしのリーフィを犯した憎き女ではあるが」
瞳の奥に、青い炎を揺らめかせながら。
「だが、この子に光を与えてくれた。その一点だけで、わたしには神よりも価値がある。また、こうして力も与えて貰った。……この夜空の、星々の数だけ感謝を」
この時ばかりは、地上の王者は懐中の宝をいっとき手放し、騎士の礼をもって、魔王の娘へ頭を垂れた。
「だが」
上げられた面には、不敵な笑みが。
「遠い霧の大陸には、『忠臣は二君に仕えず、貞女は二夫を更えず』という格言があるそうだ。我が主君は殿下ただお一人。わたしの旦那様は未来永劫、リーフィだけだ」
「あ、そう」
アストライアの反
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