サイクロプスのコーリュールさん、お仕事は鍛冶職人。紫の髪に青い肌は珍しいけれど、それよりも、一本角の下にある一つの大きな目が凄く印象的な人だった。
雨雲に、海の青を垂らしたみたいな色合いで、濡れた剣のような煌めきを帯びている。後でアシュリーが教えてくれたんだけど、青鈍色(あおにびいろ)って言うんだって。
「あ、あのぅ……」
コーリュールさんの青い頬が赤くなった。
「ミー君、レディの顔をそんな風にマジマジと見てはいけないよ?」
「も、申し訳ありません!」
アシュリーにたしなめられ、慌てて頭を下げる。とんだ不作法を働いてしまった。
「い、いや、わたしは別に……」
大柄な体を小さく縮め、お向かいに座る彼女は恥ずかしそう。
「顔なら、私が後でいくらでも見せてあげようじゃないか。ベッドの上で、嫌と言うほど、ね」
「おい、淫魔」
「なんだい? ああ、君もいつもみたく、涙と涎で二目と見られぬ顔にしてもらうといい」
「きさっ、貴様こんな衆目の中で!? しかも日中に! 恥を知れ!」
「恥なら知っているよ。興奮を引き出す最高の調味料さ」
サーラは頭に血が上りすぎて、言葉が出ないみたい。かく言う僕も、顔が真っ赤なのが解る。
「さ、三人は、夫婦なの、か?」
とつとつと紡がれた言葉には、なんだか切羽詰まった響きがあって。
「今はまだ婚約関係に甘んじてはいますが、いずれは然るべき場所で式を挙げたいと思っています」
恥ずかしかったけれど、大事なことだからハッキリ言葉にした。
「リーフィ
hearts;」
「ミー君
hearts;」
両隣から腕を抱かれ、体温と柔らかさが伝わってくる。
そして、
「うそ〜、そんなぁ〜〜〜」
「女の匂いがしなかったからてっきり……」
「まだ結婚してないならワンチャンあるって!」
「隣にいるの、ドラゴンでしょ? 喰い殺されるわよアンタ」
「美少年おちんちんで処女卒業しようと思ってたのにぃ!」
なんだか周りの席から変な会話や呻き声がきこえてくるんだけれど……。
でもそんなことより、今はコーリュールさんだ。それにお医者様のことも聞かないといけない。
そして当のコーリュールさんは。
「じ、実はあなた達に相談がある! い、医者は知ってるから、その代わりっ、その代わり……」
勢い込んで話し始めたのは良かったけれど、だんだんと尻すぼみになっていく。
「僕たちでお役に立てるなら。ね、二人とも?」
「うん、リーフィに従うよ、良き妻として」
「ああ、旦那様の仰せのままに」
僕たちの返答に、大きな目の中で瞳孔が広がった。安心して力が抜けるみたいに。サイクロプスという種族の人達は、みんなこんな風に表情が豊かなのかな?
表情って、伝染するんだ。それを僕は最近知ったのだけど。だから、僕の頬が緩んでしまっても仕方がないこと。
「……きみは、わたしがこわくないか?」
唐突なコーリュールさんの言葉に、理解が追い付かない。
「こわいって……何がですか?」
「い、いや、わたしを見て、その……」
言葉に促され、改めて彼女を見る。けれど、怖い所なんて見当たらない。強いて言うなら――。
「そこに置いてある物が凄く大きいから、当たったら痛そうで怖いです」
『ハンマー』と言うらしい、彼女の隣に置いてある物体を指さして言った。
すると、
「――プッ」
え、なに?
「くくっ、あは、あはははは!!」
いかにも寡黙そうだったコーリュールさんが、大声で笑い始めてしまった。
僕は訳が分からなくて。助けを求めて左右を見たけれど、サーラもアシュリーも、ただ嬉しそうに笑って僕の頭を交互に撫でるだけで、何も言ってはくれなかった。
ひとしきり笑うと、コーリュールさんは謝罪した。目許に涙を溜めたまま。それで、質問の意図を打ち明けてくれたんだ。
「わたし、皆と違って目が一つだから、怖がられることが多いんだ。でもこんなわたしを、その、好きだと言ってくれる男性がいて。嬉しかったけど、怖かった。からかわれてたらどうしよう、って。けど、きみの言葉でふっきれた。その人と付き合ってみる」
『ハンマーが怖い』なんて言葉のどこが切っ掛けになったのか、僕にはさっぱり解らなかったんだけど。コーリュールさんのお役に立てたみたいで嬉しい。
彼女の笑顔に釣られて僕も笑うと、
――ワアアアァァァ。
喚声が上がった。
見れば、周囲のお客さん達が皆立ち上がって、喜びの声を上げたり、隣の人と抱き合ったり、拍手したりしてる。
「コーリュールおめでとう!」
「やっと踏ん切りが付いたか」
「あぁ、独り身同盟がまた一人減った……」
「付き合うかどうかで悩んでたなんて、なんて贅沢な!?」
「ちょっとそのハンマー触らせてよ。御利益があるかも」
「私も勇気出してみよう
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